古い工場設備をそのままAI化、富士ソフトが描く「止めないスマート工場」
1 時間前
富士ソフトは9月29日、製造業の設計、製造、設備運用、データ活用を一気通貫で支援する「スマート工場オファリング」に関するメディア向け説明会を開催した。
同社グループが製造現場で培ってきた技術やノウハウを再現可能な形に整理し、(1)「設計/開発工程の高速化」、(2)「生産環境の最適化」、(3)「生産工程の自動化」、(4)「データ統合・活用」の4つのオファリングとして提供する。
富士ソフトのスマート工場オファリングの全体アーキテクチャ。設計・開発、生産環境、製造工程を個別に最適化するだけでなく、それぞれのデータを統合し、可視化やAI分析、ガバナンス、セキュリティ、クラウド・エッジ連携へ活用する (提供:富士ソフト)
各オファリングを個別に導入するだけでなく、設計情報、製造実績、設備データ、品質情報、保全履歴をデジタルスレッドで連携。AIにデータを分析させる段階にとどまらず、ロボットや設備の制御までつなぐことを目指す。
中でも重視するのが、すでに設備が稼働している既存工場、いわゆるブラウンフィールドへの対応である。設備を全面更新するのではなく、既存のPLCやSCADA、MESへセンサや制御機器、ソフトウェアを追加し、工場を止めずに自動化とデータ活用を進めることを提案していく。
日本の製造業では、人手不足、技能継承、設備の老朽化、サプライチェーンの複雑化が同時に進んでいる状態にある。
富士ソフトによると、製造業の就業者数は2002年の1202万人から2025年には1033万人へ減少。生産設備の平均使用年数は1994年の11年から2024年には14年へ延びている。また、サプライチェーン全体でデータを連携できている企業は5%未満にとどまるという。
日本の製造業が直面する4つの構造的な課題。製造業の就業者数は2002年の1202万人から2025年には1033万人へ減少したほか、技能継承、設備老朽化、サプライチェーン全体でのデータ連携の遅れが課題となっている (提供:富士ソフト)
人手不足のため、人材を増やして対応するといった従来の運用には限界がある一方、すべての設備を短期間で更新することも難しい。設備の状態を把握し、停止前に対策を講じるとともに、熟練者の判断や作業の勘所をデータとして残す仕組みが必要になる。
そこで富士ソフトは、製造現場の設備や制御システムを担うOTと、基幹システムやデータ基盤を担うIT、データ分析や判断を担うAIを組み合わせることを推進。AIの役割を「つなぐAI」「活かすAI」「動かすAI」の3つに分けて、それぞれを適材適所で活用することを目指すとする。
富士ソフトが掲げる「Gen.2 スマート工場戦略」の基本思想。経営・構想から設計、生産、物流、運用・保守までをデジタルスレッドでつなぎ、「つなぐAI」「活かすAI」「動かすAI」によって現場の最適化と設備制御を進める (提供:富士ソフト)
つなぐAIでは、PLM、BOM、MES、PLC、SCADA、IoTなど、異なるシステムや設備から得られる情報を共通化する。活かすAIでは、現場に蓄積された保全履歴やマニュアル、熟練者の知見をRAGやAIエージェントで利用する。そして動かすAIでは、エッジAI、ロボット、制御技術を統合し、分析結果を設備の動作へ反映する。
OT領域を直接の対象とするのが、3つ目のオファリングとなる「生産工程の自動化」である。
既存設備で使用しているPLCやSCADAと、製造指示や実績を管理するMESを連携し、設備の稼働状況、製造指示、作業実績、検査結果などを一体で管理する。
既存のPLC、SCADA、MESを連携し、生産設備と製造データを統合管理する「生産工程の効率化」の構成。既存設備へ制御機器やソフトウェアを追加するレトロフィットにより、設備を全面更新せずに全履歴の可視化や稼働ロスの把握、生産計画の最適化を図る (提供:富士ソフト)
設備がネットワークへ接続されていない場合や、作業員が製造実績を紙へ記録している場合でも、センサやタブレット、制御機器を追加することでデータを収集することが可能となる。既存設備を全面的に置き換えずに機能を追加するレトロフィットによって、導入コストと設備停止の影響を抑える考えである。
収集したデータをMESで製造指示や計画と照合することで、稼働ロスや工程上の問題を可視化できる。設備から直接データを取得すれば、紙からシステムへの転記作業や記録漏れを減らせるほか、製造履歴の改ざん防止やトレーサビリティの向上にもつながる。
富士ソフトは、特定メーカーの設備やソフトウェアに限定せず、既存環境に合わせて複数ベンダーの製品を組み合わせる「ベンダーニュートラル」の方針を採ることで、個々別々の製造現場の課題に柔軟に対応するとしている。
また、OTに関する個別の技術や製品を提供するだけでなく、設備制御、データ収集、MESとの接続、データ基盤、運用・保守までを一体で設計することで、導入後も安定して動き続ける環境を構築するともしている。
製造業では従来、企業の基幹システムやITインフラを担当する情報システム部門と、生産設備や制御システムを担当する製造部門が、別々にシステムを整備するケースが多く、現在も情報システム部門と工場の運用部門は別に存在していることの方が多いといえる。
多くの工場では安定した稼働の継続が優先されるほか、新たに設備の入れ替えを行った場合、従来取得していた顧客認証の取り直しが発生するなどといったこともあり、古いOSや独自の制御システムを長年にわたって使用し続けている場合もある。技術進化が著しいIT側が進めるデータ統合やセキュリティ施策を、そのままの形でOT側に適用しようとすれば設備停止につながる可能性もあるほか、そういった顧客やグローバルの認証の再取得が求められることも想定されるため、両部門の利害や優先順位を合わせることが課題となってきた。
近年、OT側でもサイバー攻撃の標的になりうること、攻撃を受けた場合、復旧に相当の時間がかかることなどが、実際に攻撃を受けた複数の事件などから社会的にも理解が進み、多くの工場を有する企業がITとOTを統合して、OTセキュリティの強化を図ろうといった動きもでてくるなど、情報システム部門と製造部門の協力をCxOレベルで推進しようという動きも出てきてはいるものの、設計と製造、ITとOT、工場と経営のデータを接続する取り組みは、個別部門だけでは完結しない規模の取り組みであり、ERPの刷新と同様に、経営層が目的と投資効果を理解し、全社的な判断として進める必要があると富士ソフトはみている。
設備やロボット、センサ、保守端末をネットワークへ接続すると、データ活用が進む一方で、サイバー攻撃や不正接続のリスクも高まる。
OT環境では、脆弱性が見つかっても設備を簡単に停止できない場合があるほか、工場はスタンドアロンの存在という認識のもと、古いOSや長期間更新されていない制御機器が現役で稼働している場合もある。そうした状況下にあって、ITとOTのデータ連携が拡大すれば、IT側で発生した侵害が製造現場へ到達する経路も増えることになる。
富士ソフトは、工場内のネットワークや接続機器を把握し、設備、ロボット、保守端末を保護するOTセキュリティについてもスマート工場オファリングへ組み込む。単にファイアウォールやセキュリティ製品を導入するのではなく、設備の通信構成、製造工程、保守方法を把握したうえで、操業への影響を考慮して対策を設計しようというもので、IT環境だけでなく生産設備を含むOT環境を保護し、データ連携と工場の安定稼働を両立させる狙いである。
グループ会社のサイバネットシステムが持つ製造業向けサイバーセキュリティの知見も活用する。設計から生産、設備運用までデータを横断的につなぐ際には、アクセス制御やデータ保護、ネットワーク監視を含むセキュリティを初期段階から設計へ組み込むことが求められるためである。
4つ目のオファリングとなる「データ統合・活用」では、BOMを軸にPLM、MES、SCADA、WMSなどのデータ連携を推進する。
BOMを軸に設計・製造・品質データを統合するデジタルスレッドの構成。PLCや設備、ロボットなどからOPC UA、MQTT、Modbusを介して情報を収集し、PLM、MES、SCADA、WMSと連携。可視化や予測、最適化、AI分析へ活用する (提供:富士ソフト)
PLCや製造装置、ロボット、AMRなどから得られるデータを、OPC UA、MQTT、Modbusなどを介して収集し、データベースやデータレイクへ蓄積する。HMIやBIツールによる可視化に加え、統計分析、因果推論、画像認識、時系列予測、数理最適化、強化学習などへも利用する。
例えば、製造設備で異常が発生した場合、設備の稼働履歴や保全記録、マニュアル、過去の対応事例を現場RAGへ取り込み、担当者の質問に対して考えられる原因や確認項目を提示する。
ただし、AIが提示する改善策を設備へ自動的に適用するのではなく、担当者が内容を確認して反映の可否を判断する運用を想定する。OT環境では、誤った制御が設備や品質、安全へ影響するため、人間の判断を残しながらAIの適用範囲を広げることを意識しているとする。
工場から得られた品質や生産実績を設計工程へ戻すことで、製品設計や工程設計の改善にも活用する。設計から製造へ一方向に情報を渡すのではなく、現場の実績を上流へ還流させ、PDCAを回すことがデジタルスレッドの重要な役割となる。
富士ソフトは、デジタルスレッドの先にフィジカルAIを位置付けているとする。フィジカルAIは、カメラやセンサから現場の状況を認識し、AIが最適な動作を判断したうえで、ロボットや設備を制御する技術である。
同社が披露したデモでは、カメラが混在して流れてくる対象物の形状や位置、姿勢を認識し、ロボットが対象物に応じてハンドを切り替えて搬送。搬送後に重量を検査し、判定結果や処理時間をデータ基盤へ送信する一連の処理を実行した。
スマート工場向けフィジカルAIのデモ。エンドエフェクター(ツール)は良く見るとロボットアームに付けられている吸着タイプのほか、右側の治具にハンドタイプ(グリッパ)もあり、ロボットアームが自分でピックアップする物体形状を認識して、自動で付け替えて作業を行うことができる(グリッパは筒状の物体をピックアップする場合に付け替えて利用する)
富士ソフトは、フィジカルAIに関心を持ちながら、どこから開始すべきか分からない企業に向け、AI、ソフトウェア、ロボット、カメラ、ハンド、GPU搭載PCなどを組み合わせたスタートパッケージを用意する。
産業用ロボットの販売やシステムインテグレーションを手掛けるダイドーと協業し、2026年10月13日に正式発表する予定としており、アセスメントからPoC、本番導入、他ラインや他拠点への横展開までを支援することを目指す。
フィジカルAIを試作段階から量産へ移行する際には、AIの演算性能だけでなく、消費電力、コスト、供給期間、周辺機器との接続、利用するAIモデルへの適合性などを考慮する必要がある。
研究開発や高性能システムではNVIDIAのGPUが有力だが、民生品や量産設備では必ずしも最高性能のGPUが最適とは限らない。用途によっては、より低消費電力でコストを抑えたAI半導体が適する場合もある。
富士ソフトはマルチベンダー対応のエッジAI実装基盤を構築し、AMDやQualcommのプラットフォームを用いたデモも披露したほか、SiMa.aiやMediaTekなどのプラットフォームも評価しているとする。
富士ソフトが構築するマルチベンダー対応のフィジカルAI実装基盤。AMDやQualcommのプラットフォームを用いたデモに加え、SiMa.aiとMediaTekの技術を検証し、用途ごとに最適なAI半導体を選択してPoCの迅速化と量産展開を支援する (提供:富士ソフト)
AMDを用いたデモでは、Ryzen EmbeddedプロセッサとAMD Versal AIエッジシリーズGen2 アダプティブSoCを統合したシングルPCB「AMD Embedded+」を活用して、音声による指示を認識し、ロボットがLiDARで作成した地図を基に障害物を回避して目的地へ移動する様子が示された。一方のQualcommを用いたデモでは、カメラ映像からマーカーを認識し、次の目的地と操舵方向を判断してロボットを自動巡回させる様子が示された。
「AMD Embedded+」を用いたデモの様子。実際のロボットはモニターの後ろ側にある。マイクに音声で指示を出すと、それをAMD Embedded+で処理して、行動命令を出す。LiDAR処理などはVersal側で、行動命令はCPU側で処理する。x86+FPGAの組み合わせだが、Zynqシリーズ(Arm+FPGA)でも使う場所や用途によっては似たようなことはできると思われる
AIモデルの学習はクラウドで行いながら、最終的な推論処理と設備制御は現場のエッジ環境で実行する。富士ソフトは複数の半導体プラットフォームへのAIモデルの移植や最適化、Linux環境でのアプリケーション開発、カメラやI/Oとの接続、製品化までを支援するとしている
富士ソフトグループは、スマート工場オファリングの対象として、当面は設備やロボットに関するノウハウを生かしやすい組み立て・加工系の製造現場、中でも工作機械や医療分野などを最初の注力市場としてみているとする。
また、サイバネットシステムが強みを持つPLMなどの上流領域と、富士ソフトが持つMES、PLC、SCADA、ロボットSI、エッジ開発をつなぐ取り組みへの需要が大きいともみており、サイバネットがパートナーとして提供するCAEやCADのユーザーなどへのアプローチも進めていくことで、さらなる市場拡大と用途拡大も狙っていくという。
スマート工場(スマートファクトリー)の導入期間や費用は、既存システムや対象工程によって異なるため、オファリングといっても単純にパッケージ料金ですぐに使えるというものではない。標準的なパッケージだけを利用する場合であれば、短期間かつ比較的安価に導入することも可能だが、顧客ニーズと工場の設備などの要件を踏まえて判断する必要があり、複数年にまたがる案件もあると見ている。
しかし、そうした案件で得た知見を成功パターンとして標準化し、再現可能なオファリングとして提供することで、検証期間と導入リスクの低減を図ることにもつながるため、同社としては積極的に顧客支援を進めて行きたいとしている。そんな同社が目指すのは、単にAIやロボットを導入した工場の実現を支援したという単純なものではなく、設計、製造、設備、品質、保全のデータをつなぎ、現場の知見を活用し、最終的に設備を動かすところまでを一体化した工場であるという。
富士ソフトグループが目指すスマート工場の3段階。「つなぐ」で設計・製造・設備データをデジタルスレッドに統合し、「活かす」でAIやデジタルツインによる分析・予測・改善を実施。「動かす」でロボットや制御システムへ反映し、継続的に稼働する仕組みを構築する (提供:富士ソフト)
こうした取り組みを続けていくことが新設工場だけでなく、現在稼働している設備を止めずに接続・監視・自動化し、OTセキュリティを確保しながら段階的に進化させることにつながることを同社は強調しており、PoCから実装、運用、他拠点への展開まで伴走していくことで、日本の製造業におけるITとOTの融合を後押ししていきたいとしている。
1990年代後半、大学で電子工学を学ぶ傍ら、秋葉原でPCパーツの販売に従事した後、2000年代前半に半導体・FPD業界専門誌の編集記者に転身。主に半導体デバイスに関するアーキテクチャ、製造プロセス、製造装置、材料分野を中心に担当。2008年1月に、毎日コミュニケーションズ(現マイナビ)の運営するオンラインメディア「マイコミジャーナル」に移籍。以降、半導体業界を中心に、半導体の適用範囲の拡大とともに、スーパーコンピュータ、自動車、ロボット、産業機器、宇宙、AIとフォロー範囲を拡大してきた。2021年のビジネス情報メディア「TECH+」立ち上げに併せて編集長に就任して以降も、技術の進化を肌で体感するべく前線にて、技術の変化をウォッチしている。
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