輸入禁止じゃなかったの?インドネシア「日本の中古電車」輸入再開の裏事情 「国産化」進めていた政府の方針に何が起きた?(東洋経済オンライン)
58 分前

インドネシアが2023年以来中止していた、日本からの中古車両輸入再開の検討を開始した。これは9月23日にインドネシア鉄道(KAI)のボビー・ラシディン社長が招致されて開かれた、衆議院第6委員会の公聴会で承認を受けたものである。
副委員長であるアンドレ・ロシアデ議員は「とくにジャカルタ首都圏における輸送ニーズを満たすため、国内産業の発展と並行して、サステナブルな中古列車の輸入を行う」と、議決の中で、KAIの動きを支持した。
インドネシアが2023年以来中止していた、日本からの中古車両輸入再開の検討を開始した。これは9月23日にインドネシア鉄道(KAI)のボビー・ラシディン社長が招致されて開かれた、衆議院第6委員会の公聴会で承認を受けたものである。
副委員長であるアンドレ・ロシアデ議員は「とくにジャカルタ首都圏における輸送ニーズを満たすため、国内産業の発展と並行して、サステナブルな中古列車の輸入を行う」と、議決の中で、KAIの動きを支持した。
■かたくなだった「中古輸入禁止」一転
同委員会は、2023年の中古車両導入是非を問う公聴会にて強い反対の立場を表明し、輸入許可を求めるKAI側との間で舌戦が繰り広げられた。アンドレ議員もその一人だ。同氏は当時、感情をむき出しにして強い口調で反対論を唱えた(2023年7月19日付記事『インドネシア「日本の中古電車輸入禁止」の衝撃』)。
【写真を見る】「中古車両輸入禁止」を打ち出していたインドネシアが一転、輸入再開の検討を開始。一体何があった? ジャカルタの通勤輸送で活躍する元JRの205系電車や新型の国産車両など、インドネシアの鉄道を走る車両の数々
当時は、国内メーカーINKA製の車両導入までの中継ぎとして、日本の中古車両ではなく短納期の中国製新型車両を導入することで決着がついた。
にもかかわらず、今回の公聴会で、議員は誰一人と言ってよいほどに中古車両輸入に異を唱えず、予定されていたかのごとく議事はスムーズに進んだ。KAI、およびその子会社である通勤線区のオペレーター、インドネシア通勤鉄道(KCI)はまず、6両編成14本(現地で12両編成に組み直して使用)を年末から年明けまでに導入したい考えだ。
正式な輸入許可の取得はこれからで、運輸省、商業省、工業省との折衝が続く。しかし、関係者の中ではおそらく今回は大丈夫だろうという楽観的見方が強い。
かつて、あれほどまでに中古車両輸入をかなくなに拒んだインドネシア政府に何が起きているのか。実は今年の初めごろから、異変は起き始めていた。
その異変を象徴するかのような事態があったのが、今年7月下旬にジャカルタで開催された「Railway Tech Indonesia(レイルウェイテックインドネシア)2026」だ。国内外の鉄道関連企業が一堂に介する、当地唯一の鉄道見本市だ。コロナ禍の休止期間を経て今回で8回目を数える。
■本来の「主役」国産メーカー出展せず
海外の部品メーカーやサプライヤーが、国内メーカーのINKA、そしてKAIをはじめとする国内の事業者への製品紹介やネットワークづくりの場として活用されており、同様の展示会である「Asia Pacific Rail(アジア・パシフィック・レイル)」がバンコク開催になる以前は、東南アジア最大の鉄道技術見本市と謳われていた。
しかし今年、この一大イベントに、本来なら主役ともいうべきINKAは出展を見合わせたのだ。念願である国産電車の量産化を果たしたにもかかわらず、出展なしという予想外の展開に、誰もが驚いたに違いない。とくに日系企業は、当地において「地べた」側よりも、車両側に強みがあり、INKAの不在は不安要素でもある。
【写真を見る】日本の中古車両が数多く活躍するジャカルタ。陸揚げされた当時の元JR武蔵野線205系電車
2019年から毎回来場している総合商社、東工コーセンインドネシア社長、杉山誠氏は今回の印象を話す。「一時期、中国メーカーが増えたが、今年は欧州メーカーの出展が目立つ。世界的な鉄道見本市、イノトランスの前哨戦として出展してくる会社もあるので、情報収集は欠かせない。一方で、かつては1ホールが埋まっていたが、今は半分くらいになってしまい寂しい」。
規模の縮小はインドネシアの市場の動きを反映しているといえる。2017年の初回開催時には、各地で鉄道建設ラッシュであり、高速鉄道、MRT、LRTといった国内事業者が多数出展し、会場は関係者であふれていた。だが、今年、鉄道事業者の出展はついにKAIの1社に、しかも出展内容は鉄道インフラ本体ではなく、IT部門のオンラインチケッティングサービスに関するものだった。
ジョコ・ウィドド(ジョコウィ)前政権は、鉄道や高速道路など、破竹の勢いでインフラ整備を進めてきた。しかし、2024年に始まったプラボウォ・スビアント現政権は、これらの予算を大幅に削減して無償給食に振り分けるなど、ジョコウィ路線からの脱却を明確にした。
■「INKA」出展しなかった深刻な要因
また、前政権下では投資パートナーとして中国企業を優遇してきたが、現政権は、中国も重要な相手国としつつも、元来の全方位外交に軌道修正しつつある。外交好きを自認するプラボウォ大統領は、とくに日本を含めた西側諸国からの投資や協力の引き出しに余念がない。一方で、プラボウォ大統領の経歴からして、どちらかというと中国には警戒感を持って接しているとみられている。
世界最大の車両メーカー、中国中車は引き続き、会場の一等地に最大のスペースを確保していたが、当展示会のメインスポンサーからは降板した。インドネシア政府は、鉄道車両に対して国産化を強く推進している。中国国内での大量生産を武器に、価格、納期で他社の追随を許さない一方、技術移転に対しては消極的な中国中車が今後、当地でどのような展開を考えているのか。担当者にコメントを求めたが、完全に話をはぐらかされてしまった。
【写真を見る】ジャカルタに投入された中国中車(CRRC)製の新型通勤電車
では、なぜINKAはこのインドネシア鉄道界の一大イベントに出展しなかったのか。展示の規模が縮小したからということではない。
実は、今年に入ってINKAは資金繰りが大幅に悪化し、展示会への出展に回せるリソースすら足りないという状況になっていたのだ。
INKAは近年、ジャカルタ首都圏の鉄道「LRTジャボデベック」用電車186両、長距離用客車612両、そして、コミューターライン用通勤電車192両、加えて輸出向けの客車、貨車と、一見して国内外向けに順調な受注、そして生産を続けていた。
しかし、運転資金の枯渇から、国内向けの客車、通勤電車共に、ここ半年近く生産がストップしてしまっている。
■爆発的な受注増に耐えられず
INKAの最新版(2025年度)の財務諸表を読み解いてみると、同社のおかれた状況の厳しさが明らかになる。2025年度の営業キャッシュフローは約1.87兆ルピア(約164億円)のマイナス、現金預金比率は前年の10.47%から1.92%まで一気に低下している。キャッシュフローの弱さは従前から指摘されており、自転車操業と揶揄されることはあったが、生産規模が小さいこともあり、売り上げも小さい一方で、損失も少なかった。銀行等からの借入金でなんとか回せてはいたと言える。
【表でわかる】INKAの2021〜2025年度の業績と資金繰りの推移。極めて厳しい状況にある
しかし、この数年来の爆発的な受注増に耐えうる体力を持っていなかった。しかも、生産のメインは、単純な造りの貨車や非冷房客車から、多くの部品を輸入製品に依存するエグゼクティブクラスの冷房客車や電車に移り変わった。ルピア安の流れもあり、原価率が大幅に上がった。
加えて、いずれの案件でも、初期トラブル等による手直しが複数発生しており、さらにコストアップした。2024年との比較で、売り上げは約2割伸びているが、粗利は3分の1以下まで減少している。2025年の最終損益は約0.8兆ルピア(約70億円)の赤字だ。
そして、最大の要因は、2024年に実施したバニュワンギ工場への生産設備の導入と推測できる。
もともと同工場はスイスのシュタッドラー社が投資する予定だったが、これが白紙となったことでINKAが設備も揃えなくてはならなくなった。国家的プロジェクトであったため、バニュワンギ工場の稼働は前政権から課せられた至上命題であった。
同工場の整備にあたっては、国から約0.97兆ルピア(約85億円)の資金投入を受けている。2024年度の投資活動によるキャッシュフローは他の年度に比べて突出した約1.8兆ルピア(約158億円)のマイナスで、バニュワンギ工場向けの投資が一因とみることができるだろう。大規模な設備投資を進める一方で、その後、営業活動から十分な資金を生み出せなくなったことが、資金繰りを圧迫したとみられる。
ある出入り業者は、「一部サプライヤーへの支払いが停滞しており、INKAへの納品をストップさせている状況」と言う。どうやら、海外への支払いを優先したために、国内サプライヤーが後回しになってしまっているようだ。そのために通勤電車の10編成目以降、客車の41編成目以降の製造が進められない模様だ。工場労働者の数も大幅に削減しており、賃金未払いというスクープまで報じられている。生産レーンはほぼ停止状態と思われるが、生産し、車両を引き渡されなければ発注者からの支払いもなく、デッドロックの様相だ。
■鉄道側は車両不足が深刻
しかし、発注者であるKAI、KCIとしても、納期の遅延は自らのビジネスに関わる大問題だ。とくにジャカルタ首都圏の通勤電車は車両不足が慢性化しており、朝ラッシュ時に積み残しが出るなどすでに影響が出ている。国のプロジェクトとして、線路側の改良も進められている中、インフラ側が完成しても車両が足りないというちぐはぐな状態にもなりかねない。
そこで今回、中古車両輸入の議論が再燃したという格好だ。
12両編成7本という数は、現在、INKAで生産がストップしている車両数と一致する。本来であれば、遅くとも今年中にINKAから納品されるはずだった。また、KCIは今年、追加で8編成のINKAへの発注を計画していたが、これも見合わせざるをえない。つまり、この分までを中古車両でひとまず調達したいというのが、KCIの希望のようだ。
プラボウォ政権は先般、前政権下で国の負担なしという前提で開業させたジャカルタ―バンドン高速鉄道の建設債務を国営企業グループから財務省に移管し、国の管理下に置くことを決めた。移管に反対の立場を示していた財務大臣は、この直後に更迭された。
国産品比率向上のためINKAに建設させたバニュワンギ工場も前政権の置き土産であり、構図的にはこれと変わらない。だからこそ、関係者は今回の中古車両輸入許可取得に楽観的な立場なのである。10月1日の内閣改造で、ジョコウィ政権時代から続投し、中古車両輸入の反対を貫いてきた工業大臣も更迭となった。
とはいえ、あくまでも暫定的な措置であり、冒頭のアンドレ副委員長のコメントにある通り、「国内産業の発展と並行して」という条件付きだ。数年以内にINKAを立て直さなければならない。
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■INKAが鉄道会社の傘下に
そこで今、進んでいるのがKAIによるINKAの買収だ。KAIは毎年、安定した営業利益を生み出しており、2025年には8兆ルピア(約705億円)を突破した。両者の合併は、前政権時の国営企業改革でも取り上げられていたが、実現には至らなかった。それが今、背に腹を変えられない事情から急転直下で動き出した。中古車両の輸入解禁は、KAIが瀕死のINKAを救うことに対するバーターとも言える。
KAIによるINKAの買収手続きは7月から始まっており、年末までに買収を完了、2027年から新体制でのスタートを切る予定である。買収後、KAIが持株会社となり、INKAは子会社(合併後の会社名は未公表)となることから、両社間での資金融通が可能になる。また、国営企業を束ねるホールディンク会社、かつファンド機能も併せ持つダナンタラインドネシアが、INKAの過剰債務、約4.7兆ルピア(約414億円)を肩代わりする案も浮上している。
KAIはINKAの買収後、オペレーションからメンテナンス、そして車両製造を一気通貫できる東南アジア最大の鉄道会社になると意気込んでいる。2027年はシンガポールで鉄道見本市「イノトランス・アジア」も開催されるタイミングだ。KAIは子会社をひっさげて出展することになるだろう。この大舞台でインドネシアの存在感を発揮してもらいたいものだ。
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