雨ざらしのマネキンの群衆、癒やされないねこの展示…50代姉妹が迷い込んだ伊豆に実在“カオスすぎる博物館”の正体(東洋経済オンライン)
53 分前

世間を沸かしたバツ3の叶井俊太郎氏との結婚から15年あまり。漫画家・くらたまに降りかかったのは、夫の死と、残りの人生をどう独りで生きるかという「新たな人生設計」だった――。
夫亡き後の日々の暮らしや感じたこと、そして新たな挑戦の日々を漫画とエッセイでお届けする(漫画はエッセイの最後に)。【連載第29回】
■悲報「怪しい少年少女博物館」が…
「大変! 『怪しい少年少女博物館』、閉館するって」。妹からLINEが来て、今年6月に友人たちと行ってきたばかりの、伊豆高原の不思議な博物館が今年9月中に閉館してしまうことを知りました。
世間を沸かしたバツ3の叶井俊太郎氏との結婚から15年あまり。漫画家・くらたまに降りかかったのは、夫の死と、残りの人生をどう独りで生きるかという「新たな人生設計」だった――。
夫亡き後の日々の暮らしや感じたこと、そして新たな挑戦の日々を漫画とエッセイでお届けする(漫画はエッセイの最後に)。【連載第29回】
■悲報「怪しい少年少女博物館」が…
「大変! 『怪しい少年少女博物館』、閉館するって」。妹からLINEが来て、今年6月に友人たちと行ってきたばかりの、伊豆高原の不思議な博物館が今年9月中に閉館してしまうことを知りました。
「私、行ってみたいんよね。そこの姉妹館の『まぼろし博覧会』と『ねこの博物館』も」
「そう。創設者も運営も、同じ人みたいよ」
「怪しい少年少女博物館」の文字通りの怪しさは忘れられませんが、あのセンスで作った博物館がほかにもあるとは。是非観てみたくなりました。
「閉館前に行こう」と、妹と予定を合わせて「伊東経由〜伊豆高原・下田旅」を計画し、実行してきました。思い立ったらすぐ、というのは夫が亡くなって以来大事にしていることです。「あれもこれも、夫が元気なうちにやっておけばよかった」と後悔したことがたくさんあったので。
今回は1泊、宿はこれも妹が以前から行ってみたい宿のうちの1つと言っていた千人風呂がある下田の「金谷旅館」にしました。まずは特急踊り子で伊東まで行き、レンタカーを借りて博物館のある伊豆高原周辺を回り、下田で夕食をとってから宿に入ります。
伊東駅を降りると、雨がぱらついていました。持参した傘を差そうとリュックを背中から下ろすと、ポケットに入れていた折り畳み傘がない!
「来るときポケットに入れたのに。どこかで落としたのかな」
「うん、行きがけは持ってたよね」
「わざわざなくすために持ってきたみたい。バカだ……」
軽くて差しやすくて気に入っていた傘なのに、ポケットが浅かったせいかなくしてしまい、ガッカリです。こんなことなら、使い捨てのビニール傘にすればよかったと悔やみました。
仕方なく妹の傘に入れてもらいながら、伊東駅近くにあるレンタカー屋まで歩きました。
■伊東名物「うずわ飯」とは?
レンタカーを借りるために妹が手続きをしている間、伊東のパンフレットを見ていると「うずわ飯」というものが名物としてあることを知りました。しかもそれを提供している店は伊東駅に近く、歩いて行けます。
「ねえ、今から行くお昼、この『うずわ飯』にしない?」
妹にパンフレットを見せながら言いました。
「へえ、いいね。食べたことないし」
妹も賛成したので、借りた車はそのまま少しレンタカー屋の駐車場に置かせてもらい、うずわ飯を出してくれる「まるげん」へ歩いて行きました。ほんの数分で着いた店は居酒屋っぽい活気のある店構えで、店内に入ると12時前なのに既に人がちらほら入っていました。
「干物もあるから、1つは干物にしよう」と、干物ランチとうずわ飯ランチを1つずつ注文。そもそも本場で干物を食べようと話していたので、どっちも食べられるのはちょうどよかったです。
説明文を読み、うずわって魚の生ミンチみたいなものかなと想像していましたが、大体合っていました。
地魚で足が早いため、なかなか流通しないソウダガツオのたたきで、青唐辛子を刻んだものを添え、しょうゆをつけて熱々ご飯にのせていただきます。うん、間違いなくおいしい。青唐辛子がとてもいい仕事をしてくれて、アクセントにもなり、生臭さ消しにもなり、いくらでもご飯が食べられそうです。
しかも、頼むと出汁をかけてくれるので、最後はお茶漬けでシメました。干物も悪くなかったですが、もしまた伊東に来たらこのうずわ飯を食べたいです。
■ジブリの映画に出てきそうな…
満腹で店を出ると、妹が「この近くに前から行ってみたかった『東海館』がある。さっきネットで地図見て気づいた、行ってみよう」と言うので、商店街を通って東海館に向かいました。
途中、レトロな和菓子屋があったので何の気なしに商品を眺めたら、「豆大福130円」「きんつば120円」「黒糖まんじゅう120円」など、令和価格とは思えない表示がされており、「お腹いっぱいだけどこれはおやつに買わねば」と、豆大福ときんつばを1つずつ買いました。合計250円。
「おいしかったら、明日も買いたいね」
妹と話しつつ、商店街を出て少し歩くと、すぐに目指す東海館がありました。歴史のある建物というのが一目でわかる佇まいで、ジブリの「千と千尋の神隠し」に出てきそうな元温泉旅館です。
入り口で靴を脱ぎ、入場料300円を払って中に入りました。
「うわあ、懐かしい。これ、ひいばあちゃんちやん」
妹が、ガラスが少しゆがんでいるように見える昭和前期の掃き出し窓と、池のある中庭を見て言いました。
曽祖母が存命中に何度か行ったことがある山口県萩市の家に、同じような廊下の掃き出し窓から見える中庭に小さな池があって、まさしく東海館の中庭に近いものがありました。
今はもう曽祖母も祖母も亡くなり、代替わりもしているので二度と行くことはない家ですが、低い出入り口や歩くたびにギシギシ鳴る板の廊下、狭くて急な階段、置いてあるタンスなど家具まで似ていて、私と妹の記憶の中の懐かしい風景を引き出してくれました。
ただ、東海館は曽祖母の家とは比べものにならないほど大きな建物です。3階の大広間は120畳もあり圧巻でした。
「こんな広い畳の部屋は初めて見たかも」
和服姿の女性の等身大の人形などもあり、昔ここで日々大宴会が繰り広げられていたことが偲ばれます。
■怪しすぎる「まぼろし博覧会」
小一時間後、まぼろし博覧会駐車場に着きました。
怪しい雰囲気満載の階段を上がり、入館料1400円を払って中に入った私と妹は、早速何の脈絡もなくそびえる仁王像と大仏様の巨大な顔を見上げて、うなりました。
「まぼろし博覧会」は、サブカル的なもの、不気味なもの、カオスな空間が好きな人には比類なく楽しめるところだと思います。
とてつもない数のオブジェ……古い人形やおもちゃやレコードや雑誌、動物の剥製やマネキン人形などが所狭しと展示されている空間が、「はたしてこれ、終わりがあるの?」と混乱するほどの密度で続きます。
言葉で説明してもあの感じを再現するのは難しいのですが、混沌と根源的な狂気のようなものに耽溺する場所です。つまり、「怖いもの見たさ」がまったくない人が「お化け屋敷は無理」というのと同様に、ここも無理という人は結構いるでしょう。かなり鑑賞する人を選ぶ博覧会です。
「怪しい少年少女博物館より規模が大きくて、すごいわ……」
たっぷりと濃密な鑑賞がやっと終わり、出口に着いて私は妹に言いました。
「ここ、来れてよかったけどもうお腹いっぱいかも」
「怪しい少年少女博物館」が閉館するからと来た旅ですが、妹は「少年少女のほうは、もう行かなくていい。カオスは充分堪能した」と精魂尽き果てた様子でした。
■「ねこの博物館」で見た展示物の衝撃
「でも、『ねこの博物館』は行くよね」
私が尋ねると、「うん。猫のかわいさに癒やされたいね」と妹。博物館三姉妹のもう1つ「ねこの博物館」は、車ですぐでした。名前から猫カフェのような施設を想像しそうですが、さすが「まぼろし博覧会」「怪しい少年少女博物館」と姉妹館、そんな穏やかな展示ではありませんでした。
「これは……大きなぬいぐるみ?」
入館するなり、妹が目の前に迫る虎たちを見上げてつぶやきました。
「いや……、剥製じゃない?」
「剥製? これ全部本物なの? そんなことある?」
動物の剥製が展示されている博物館、私たち姉妹は2人とも好きなのでいくつか観に行ったことがありますが、このような展示の仕方がされているのを観るのは初めてです。
ガラスの壁に阻まれていない、同じ方向に向いた虎たちが何頭も連なるその風景は、「まぼろし博覧会」「怪しい少年少女博物館」に通じる強烈なセンスを感じさせ、観る者を異世界に連れていきます。ほかの展示も迫力とドラマがあり、スペースは広くないものの「すごいものを観た」という驚きを充分味わえました。
2階にはたくさんの猫モチーフの置物や、生きている猫と触れ合えるスペースもあり、この独特すぎる統一性? のあり方に感嘆するばかりでした。
館を出るときに、受付の女性に「1階の動物たちは剥製ですか?」と聞くと、「ケープライオン以外、すべて剥製です」。「偽物は置いていない」とでも言いたげな、自信に満ちた答えをいただきました。
私も妹も、くたくたでした。ただただ展示物を観ただけなのに、「まぼろし博覧会」「ねこの博物館」の情報量が多すぎて、ライフポイントがほとんど残っていません。ですが……。
■「芸術の森 伊豆ろう人形美術館」へ
「このすぐ近くに、蝋人形館もあったよね……」
「うん……、せっかくだから、行っとこうか……」
「芸術の森 伊豆ろう人形美術館」の存在を調べていた私たちは、気力を振り絞って向かいました。
結論からいうと、ここも相当マニアックな雰囲気の館ですが、「まぼろし」を観たあとなので随分と整頓された印象を受けました。顔の小皺、指などの産毛にまで意匠を凝らした、リアルな蝋人形たちでした。
しかもここは「等身大の自分の蝋人形製作」を請け負っていて、そのポスターもありました。一体約2000万円。興味とお金のある方は、世界に一体の自分人形を作ってみるのもおもしろいかもしれません。
蝋人形館を出た私たちは、ただもう一刻も早く食事をすませ、温泉に浸かって休みたい気持ちでいっぱいでした。姉妹の心は1つです。一路、宿のある下田に向かいました。
「夕ご飯、何食べようか」
とりあえず下田で直接探そうか、ということになりました。いろいろ調べる気力が残っていなかったせいもあります。
しかし、これが甘かった……。地方の夜は早く、観光地であっても飲食店の数は多くありません。下田に着き、目星をつけた店へ行っても「看板が出ているのに開店していない」「予約でいっぱいで入れない」など何軒かが不発に終わり、やっと見つけたのが「なみなみ」という居酒屋でした。
■人生初「わさび丼」の味は?
幸いだったのが、ここが大当たりだったことです。
のりの天ぷらや金目鯛茶漬けなど、どれもおいしかったですが、なかでもインパクトがあったのは「わさび丼」でした。存在を知ってはいましたが、食べるのは2人とも初めてです。
目の前に提供されたのは、かつお節とのりがかかった熱々ご飯、そして新鮮なわさびとおろし器で、自分で擦ったわさびを好きな塩梅でしょうゆとご飯に混ぜながらいただきます。
「おいしい! これ、家でもやりたい!」
わさびでご飯を食べるって不思議でしたが、これならいくらでも入りそうです。帰りにいいかつお節とのりを買って、ぜひ自宅でもやろうと決めました。五十路を過ぎて自分でも作れる新メニューが増えることは、旅の醍醐味の1つでもあります。
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