「これで本当に走れるの?」NIKEが極秘開発した厚底シューズ《APEX》を試してみると…開発担当者は「ゼロドロップは…」「世界記録奪還へ手応え」(Number Web)
43 分前

2層に重ねられたエア、極限まで厚くしたソール、そして驚きのゼロドロップという構造。NIKEが極秘裏に開発を進めてきた新作シューズは、これまでの厚底レーシングシューズの常識を覆す一足だった。いち早くこのシューズを試す機会を得た編集部員が、アメリカから来日した担当者を直撃して聞いた開発秘話とはーー。<前編・後編の2本立て。続きはこちら>
雨が続く9月下旬、六本木を出発し、神宮外苑、そして国立競技場まで、とあるランナーと一緒に、初めて足を入れるシューズで走っていた。
横を走っているのは、NIKEでシューズ開発を担うブレット・スクールミースター。そして自分が履いていたのはNIKEが極秘に開発を進め、この度、発表された最上位レーシングシューズ「APEX」(エイペックス)。
ズームエアが、まるでビッグマックのように2層になったこの“異形のシューズ”からは、ソールが雨で濡れていたこともあり、ポキュッ、ポキュッと小さいながら独特の音が響いた。
お互いの子供たちのこと、フルマラソンで自己ベストを出した時のレース、東京で食べた寿司。他愛のない会話をしながらシューズの感触を確かめるように走る自分に向けて、ブレットが尋ねてくる。
「How do you feel about APEX?」
「My feeling is completely different before and after running」
そしてこう補足した。
「I could understand why you said this shoe made you smile」
そう、このシューズへの印象は走る「前」と「後」で一変したのだ。
2層に重ねられたエア、極限まで厚くしたソール、そして驚きのゼロドロップという構造。NIKEが極秘裏に開発を進めてきた新作シューズは、これまでの厚底レーシングシューズの常識を覆す一足だった。いち早くこのシューズを試す機会を得た編集部員が、アメリカから来日した担当者を直撃して聞いた開発秘話とはーー。<前編・後編の2本立て。続きはこちら>
雨が続く9月下旬、六本木を出発し、神宮外苑、そして国立競技場まで、とあるランナーと一緒に、初めて足を入れるシューズで走っていた。
横を走っているのは、NIKEでシューズ開発を担うブレット・スクールミースター。そして自分が履いていたのはNIKEが極秘に開発を進め、この度、発表された最上位レーシングシューズ「APEX」(エイペックス)。
ズームエアが、まるでビッグマックのように2層になったこの“異形のシューズ”からは、ソールが雨で濡れていたこともあり、ポキュッ、ポキュッと小さいながら独特の音が響いた。
お互いの子供たちのこと、フルマラソンで自己ベストを出した時のレース、東京で食べた寿司。他愛のない会話をしながらシューズの感触を確かめるように走る自分に向けて、ブレットが尋ねてくる。
「How do you feel about APEX?」
「My feeling is completely different before and after running」
そしてこう補足した。
「I could understand why you said this shoe made you smile」
そう、このシューズへの印象は走る「前」と「後」で一変したのだ。
ランニング前、APEXを履いて立ったり、歩いているだけだと、体重だけでは前足部のエアを潰せないため、柔らかいフォーム素材のみで構成されている後足部が沈み込む。そうすると重心がかなり後ろに傾いてしまい、立つために体全体でバランスをとらなければいけないのだ。他社メーカーを含め、どの厚底シューズとも違う“不自然”な履き心地だった。
APEXは前足部と後足部の高さ(オフセット)がともに40mmで差がない、いわゆる「ゼロドロップ」シューズ。オフセットが小さくなるのが最近の業界全体の傾向でもあるが、レーシングシューズで「ゼロ」を採用したことには驚き、頭の中に「?」が浮かんでいた。
<これで本当に走れるのか? >
それが実際に走る前の、偽らざる思いだった。
だが、わずか5km程度の距離だが、キロ5分を切るくらいのペースで走ってみると、不自然さが消えるばかりでなく、初めて経験するタイプの柔らかさ(「弾性」「バネ感」と言い換えてもいいかもしれない)に自然とペースが上がり、しかも一定のリズムで走っている時には安定感を感じるほどだった。当初の<走れるのか? >という疑念は、こう変わった。
<このシューズでフルマラソンを走ってみたい>
ランニング前の取材で、ブレット自身が初めてAPEXを履いた際の正直な感想を聞いたら「僕はヒールストライカーだけど速く走れる感覚があったし、思わず笑顔になったよ」と返ってきた。「スマイル」という抽象的な返答に、ランナーとしての率直さを感じつつも、近年のトップ選手用のモデルが先鋭化していることを知っているだけに「抽象的な言葉で誤魔化されたかな?」と思っていた。
しかし、それは素朴で、嘘のない表現だったと走った後なら言える。経験したことのない新しいものに出会い、それが想像とは違う体験を与えてくれると、人は笑顔になってしまうのだ。
では、APEXの何が新しく、僕らを笑顔にさせたのか。実際に開発に携わってきたブレットの言葉を紐解きながらその全貌に迫っていきたい。
ちなみにブレットは元長距離ランナーで、コロラド大学時代の自己ベストは3000mが7分49秒、5000mが13分30秒(! )。高校時代、大学時代にシューズ販売店でアルバイトを経験し、NIKE入社後も20年シューズ開発に携わっているという筋金入りのシューズラバーだ。
今年の4月、マラソン界に激震が走った。
ロンドンマラソンで公認記録としては人類で初めて「2時間切り」が達成されたのだ。セバスチャン・サウェ(ケニア)が1時間59分30秒、ヨミフ・ケジェルチャ(エチオピア)が1時間59分41秒。彼らの履いていたシューズには3本ラインが入っていた。新しい補給戦略などにも注目が集まったが、このレースのゴールシーンは厚底シューズの投入以来、男子マラソンの世界記録を独占し続けてきたNIKEの牙城を、アディダスが打ち破った瞬間でもあった。
だからこそ、ブレットへのインタビューはこんな質問から始めてみた。「このシューズでアディダスから世界記録を奪還できるのか?」。ブレットはすぐに笑顔になった。
「実は7月にケニアへ行ってきたんだ。何人かのアスリートと一緒に過ごし、APEXやいくつかのプロトタイプ(試作品)をテストしてもらったんだが、僕らの開発が非常に良い方向に進んでいると思える時間だった。タイムは私たちが保証できるものではないし、選手のコンディション、天候など全ての条件が揃う必要があるけれど手応えを感じているよ」
そして1人のランナーの名前をあげた。先のロンドンマラソンで2時間0分28秒という、これも従来の世界記録を上回るタイムで3位に入ったジェイコブ・キプリモ(ケニア)だ。彼はロンドンでAPEXのプロトタイプを履いていたという。
「現在、キプリモは驚異的なコンディションをキープしているよ。ケニアで彼のトレーニングを見守り、適切なシューズを手渡してきたし、その後も人生で最高の調子にあるという報告を受けている。10月11日のシカゴマラソンで何が起きるか見てみよう。私も現地に行くからとても楽しみにしているんだ」
シューズについて具体的に見ていきたい。まずはAPEX、日本語にすると「頂点」や「頂上」という意味の名前の由来から。
「Alphafly(アルファフライ)を作った当時は、これが自分たちの作れる最高のシューズだと思っていたんだ。『Alphaflyが頂点(pinnacle)になる』とね。しかしレーシングシューズの開発がさらに進んでいく中で、そのさらに上を行くものが必要になった。
では名前をどうするのか。物理的な高さを考えたときに、象徴的なのは山の頂(Apex of a mountain)だと思い、『Alphaの先にあるものは何か』を直感的に表すためにAPEXとしたんだ。あるいは動物たちの生態系の頂点、『Apex Predator(頂点捕食者)』という意味合いも含まれているよ」
基本的なシューズのスペックや構成要素は以下の通りだ。
スタックハイト:前足部 40mm/ヒール 40mm
オフセット:0mm
重量:168g(メンズ26.5cm/ウィメンズ27cm)
クッショニング:2層構造のエア ズーム ユニット
ミッドソールのフォーム素材: ZoomX LT フォーム
プレート:インバースウェーブ形状のカーボンプレート
アッパー:フライニットX アッパー
アウトソール:GOATEK + Fast Shot
フィット感がありつつも通気性の高い「フライニット X」や、トレイルランニングの知見を活かして開発された「GOATEK」についても、APEXの軽量化に大きく寄与しており、NIKEの視点からは語れることがたくさんあるようだったが、今回は筆者が特に重要だと考えた3つのポイントを深掘りしていきたい。
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