【内田雅也の追球】「熱覇」を前にした秋雨(スポニチアネックス)
46 分前

マイナーリーグが舞台の映画『さよならゲーム』で、ベテランの“クラッシュ”デービス(ケビン・コスナー)が長時間移動のバスの車中でふと、メジャーでの経験を漏らす。騒いでいた若手が瞬時に静まりかえる。
「それ、本当か!?」
「本当だ。たった一度だけだがな……」
メジャーリーグでは9月になると枠が26人から40人に拡大される。門戸は広まるが期間は短い。デービスはその「セプテンバー・コールアップ」(9月招集)で呼ばれた。「ワン・カップ・オブ・コーヒー」だ。別の映画の題名になった言葉で「1杯のコーヒーを味わうだけのメジャーリーガー」という意味がある。
「もっと聞かせてくれ」
「広いロッカー、ふかふかのカーペットやソファ、最高の食事……」
ハンバーガーや軽食で辛抱してきた若手はまだ見ぬ舞台を思い、目を輝かせる。そんな明暗が描かれている。
日本のプロ野球でも――アメリカほどではないが――1軍と2軍の差は大きい。誰もが1軍の晴れ舞台を思っている。
阪神は伊藤稜、戸井零士……ら育成6選手に戦力外通告を行った。全員1軍が経験がない。「コーヒー」を飲んでいない。今後の身の振り方を考えないといけない。
秋は辛い季節でもある。優勝へマジック4の阪神でも当然、整理される選手がいる。冷たい秋雨のなか通告を受けた。1軍のヤクルト戦は夕方、中止が決まった。悲喜こもごもの日々は続く。
昼過ぎには西勇輝の引退会見があった。オリックス、阪神での現役18年間を「幸せでした」と語れる選手は、本当に幸せなのだと実感する。
引退を決断した理由で「純粋に後輩を応援している自分がいた」と語ったのは印象的だった。チーム競技だが個人で争う競争社会。自らが得た技や心を教える自分に「潮時」を感じたそうだ。
映画でもデービスは若手有望株の投手を独り立ちさせようと指導する。メジャー昇格の知らせを受け自身は解雇になる。
最下位の中日からは監督・井上一樹の辞任が伝わってきた。結果がすべての世界。辛い決断だったろう。阪神監督・藤川球児は何を思うだろう。会見ではほとんど何も語らなかった。チームスローガンの「熱覇」を前に秋雨と秋風を感じる一日だった。 =敬称略=(編集委員)
マイナーリーグが舞台の映画『さよならゲーム』で、ベテランの“クラッシュ”デービス(ケビン・コスナー)が長時間移動のバスの車中でふと、メジャーでの経験を漏らす。騒いでいた若手が瞬時に静まりかえる。
「それ、本当か!?」
「本当だ。たった一度だけだがな……」
メジャーリーグでは9月になると枠が26人から40人に拡大される。門戸は広まるが期間は短い。デービスはその「セプテンバー・コールアップ」(9月招集)で呼ばれた。「ワン・カップ・オブ・コーヒー」だ。別の映画の題名になった言葉で「1杯のコーヒーを味わうだけのメジャーリーガー」という意味がある。
「もっと聞かせてくれ」
「広いロッカー、ふかふかのカーペットやソファ、最高の食事……」
ハンバーガーや軽食で辛抱してきた若手はまだ見ぬ舞台を思い、目を輝かせる。そんな明暗が描かれている。
日本のプロ野球でも――アメリカほどではないが――1軍と2軍の差は大きい。誰もが1軍の晴れ舞台を思っている。
阪神は伊藤稜、戸井零士……ら育成6選手に戦力外通告を行った。全員1軍が経験がない。「コーヒー」を飲んでいない。今後の身の振り方を考えないといけない。
秋は辛い季節でもある。優勝へマジック4の阪神でも当然、整理される選手がいる。冷たい秋雨のなか通告を受けた。1軍のヤクルト戦は夕方、中止が決まった。悲喜こもごもの日々は続く。
昼過ぎには西勇輝の引退会見があった。オリックス、阪神での現役18年間を「幸せでした」と語れる選手は、本当に幸せなのだと実感する。
引退を決断した理由で「純粋に後輩を応援している自分がいた」と語ったのは印象的だった。チーム競技だが個人で争う競争社会。自らが得た技や心を教える自分に「潮時」を感じたそうだ。
映画でもデービスは若手有望株の投手を独り立ちさせようと指導する。メジャー昇格の知らせを受け自身は解雇になる。
最下位の中日からは監督・井上一樹の辞任が伝わってきた。結果がすべての世界。辛い決断だったろう。阪神監督・藤川球児は何を思うだろう。会見ではほとんど何も語らなかった。チームスローガンの「熱覇」を前に秋雨と秋風を感じる一日だった。 =敬称略=(編集委員)
本文の著作権はYahoo!ニュースにあります。