「あれが普通」日本代表、田中碧がプレミアで磨いた球際の強度。W杯での痛恨ミスから3か月、エクアドル戦で示した確かな進化【コラム】(フットボールチャンネル)
48 分前

W杯北中米大会のブラジル戦で味わった悔しさを、田中碧は成長へのエネルギーに変えようとしている。プレミアリーグで守備強度を磨き、エクアドル戦では佐野海舟とともに中盤を支えた。30歳を目前にしたボランチが、再浮上への道を歩んでいる。(取材・文:元川悦子)
9月24日のウルグアイ戦を3−1、28日のベネズエラ戦を2−1と連勝し、迎えた10月1日のエクアドル戦。9・10月シリーズの後半2戦は「キリンカップサッカー2026」という大会形式で、ホスト国の日本はこの一戦に勝って、5日に行われる決勝のニュージーランド戦に駒を進めなければならなかった。
とはいえ、今回4試合の中で、エクアドルは最もタフな相手だ。日本と同じFIFAワールドカップ(W杯)2026北中米大会でベスト32入りを果たした強豪で、同W杯南米予選でわずか5失点という堅守は特筆すべきものがあった。
それを見越して、森保一監督は堂安律や久保建英、中村敬斗らW杯の主力攻撃陣を要所で配置。また、後方も鈴木彩艶や板倉滉らを起用して試合に臨んだ。
こうした中、やはりカギを握るのは中盤の攻防だ。デュエル王・佐野海舟とコンビを組んだ田中碧には、攻守の統率役としてチーム全体をコントロールすることが求められた。
実際にゲームが始まってみると、エクアドルの球際や寄せの激しさは想像をはるかに越えていた。さらに、9月の長雨の影響で、横浜国際総合競技場のピッチは劣悪な状態だった。普通の選手であればボールコントロールにも苦しむはずだが、彼らは技術の高さをいかんなく発揮。決してボールを渡さなかった。
エクアドルの質の高さの前に日本は序盤からやや主導権を握られたが、今シリーズからオープンプレーの守備担当に就任した長谷部誠コーチの求める「前からのプレス」を選手たちは実行しようと試みる。田中碧も守備面で“確かな違い”を示そうとしていた。
「(元ブライトンのペルビス・)エストゥピニャンを見たら分かりますけど、プレミアでも全部球際で勝ってるじゃないですか。あれが普通だし、それと同じくらいやり合わないといけない」と本人も強調。佐野海舟とともにボールを狩り取る仕事に高度な意識を持って取り組み、かなりの確率で成功させていた。
実際、今季プレミアで8月30日の第3節・ブライトン戦からスタメンを奪ってからの田中碧は守備強度が格段にアップしている。
直近20日の第5節・クリスタルパレス戦では鎌田大地を削ってイエローカードをもらっているが、以前の「パスさばきに秀でた選手」から「局面でのバトルで勝てるボランチ」へと変貌。その成長ぶりをエクアドル戦で解説を担当した元日本代表・柿谷曜一朗氏も称賛していたほどだ。
彼が短期間で急激な進化を遂げているのは、やはりW杯北中米大会・ブラジル戦での痛恨のミスがきっかけではないか。「絶対に再起したい」という思いがひと際、強いからだろう。
ラウンド32の大一番。1−1で迎えた終了間際、田中碧が前に出そうとしたボールをカットされ、致命的な2失点目につながった場面は、今も多くの人々の脳裏に焼き付いているに違いない。
もちろんあの時間帯は日本が守備に重心を置き、ボールをキープしようとしてもすぐに奪い返される展開が続いた結果ではあるのだが、田中碧にとって大きな心の傷になったことは確かだ。
「シンプルに自分の力がまだまだ足りないんだというのは感じました。思い切り蹴り出しておけばよかったなというふうには思いますし…。とはいえ、誰のせいでもなく、自分の責任ではあるので、サッカーである以上、自分で取り返さないといけないと思います」
敗戦から一夜明けた総括取材対応で、悲痛な面持ちでこう話した田中碧。もともと誰もが認める努力家ではあるが、そこからの3か月間はかつてないほどガムシャラに突っ走ってきたはずだ。
日本代表での足跡を振り返っても、彼は2022年カタールW杯アジア最終予選からレギュラーの座をつかんでいたが、遠藤航が主将を務め、鎌田がボランチに移り、佐野海舟も急成長を遂げた第2次森保体制では3〜4番手に降格。2023〜26年までの3年間は先発出場する機会が激減した。
本人も不安定な立ち位置からも這い上がりたいという気持ちはずっと抱えていたはず。来年1月に行われるアジアカップまでの第3次森保体制半年間では、その構図を覆したいという野心もあるだろう。
「代表はスタメンで出る選手、サブで出る選手はいますけど、改めて競争があるからこそ、4年間成長を続けられる。自分も出た試合でパフォーマンスを出すことを引き続きやらなきゃいけないと思います」と田中碧はもう一段階二段階、高い領域に到達しなければならないと考えている。
30代を目前に控えた今、成長曲線を引き上げなければいけないという危機感も強まっているはずだ。
その重要なファクターが守備強度の向上だ。プレミアでの活躍、今の代表での長谷部コーチのアプローチもプラスに働いているが、エクアドル戦では佐野海舟とともにピンチの芽はほとんどつぶしていた。
「今回はリスク管理に重きを置いていたんで、海舟と自分のところでボールを取り切れるシーンがすごく多かった」と本人も納得の仕事を見せられた様子だ。
一方、持ち前の配球力の部分でも随所に特徴を発揮していた。1つ印象的だったのが、25分の谷村海那に出したミドルレンジの縦パスだ。
これが通り、谷村が落としたボールを鈴木唯人がフィニッシュ。シュートは惜しくも枠を外れたが、この一刺しに磨きをかけていければ、攻撃陣の重要なアクセントになれる。攻守両面で手ごたえを得られた一戦になったと言っていいだろう。
結局、彼は79分に前田大然と交代し、PK戦をベンチで見守ることになったが、PKだろうが何だろうが勝利は勝利である。彼にとってもいいリスタートの試合になったことは間違いない。
「今日は勝ち切れなかったですけど、負けに値するかと言われたらそうではなかった。でもチャンスを作れたかというと、ビルドアップも含めて反省はある。そこをもっともっとやらなきゃいけないですね」と本人も振り返る。結果だけでなく、内容にも改善の余地があると感じているようだ。
その部分と真摯に向き合い続けられるのが田中碧の良さだ。ここからも一歩一歩前進して、4年後にはブラジル戦のミスを完全に払拭するくらいの爆発的なスケールアップを遂げていてほしい。
(取材・文:元川悦子)
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