大企業では年10万円も組合費が徴収される一方、20代の5人に2人が「加入しているかわからない」労働組合はまだ必要か?(東洋経済オンライン)
49 分前

けっして安くはない組合費を払いながらも、20代にいたっては5人に2人が「自分が組合員であるか否かを把握していない」というほど、存在感が希薄になっている労働組合。その衰退ぶりは、組織率が2024年の段階で16.1%まで低下していることからもうかがえます。
かつては春闘やメーデーで大きな存在感を示していた労働組合は、なぜここまで力を失ってしまったのでしょうか。本稿では、350を超える労働組合の支援に従事している佐々木隆寛氏の著書『労働組合の未来を、デザインする。 組織の価値を高める3要素とは?』から一部を抜粋・編集する形で、その構造的な理由を探ります。
■「自分が加入しているかどうか」も把握されていない
「あなたは、労働組合に加入していますか?」
もし、街頭で20代の働く人にこんな質問を投げかけたら、どれくらいの人が即答できるでしょうか。おそらく、多くの人が一瞬考え込み、「たぶん……」「どうだったかな……」と口ごもるでしょう。
日本労働組合総連合会(連合)が2025年3月に発表した『連合および労働組合のイメージ調査2025』の結果は、そんな現代社会の実態を浮き彫りにしています。
この調査によると、有職者全体のうち、実に26.3%もの人が「自分自身が労働組合に加入しているかわからない」と回答しています。
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特に衝撃的なのは若い世代の状況で、20代に絞るとその割合は40.1%にまで跳ね上がります。つまり、働く20代の5人に2人は、自らが組合員であるか否かを把握していない、というのが現実です。
毎月の給与から組合費が天引きされているにもかかわらず、その事実すら認識していません。以前のように給与明細を手渡しで受け取ることがなくなったということもありますが、そもそも明細を見ない若者が増えています。また、たとえ目にしたとしても、社会保険料などと同じように、給与天引きされる「何かしらの費用」の1つ、という程度の認識しかありません。
年間で考えれば決して安くない金額が引かれています。
正規従業員の組合員1人当たりの平均組合費は月額5102円(『第21回労働組合費に関する調査報告2024年10月実施』日本労働組合総連合会・連合総合生活開発研究所)。賞与からも徴収される大手企業などでは月額7000〜8000円に達することもあり、年間では10万円弱にもなります。
10年勤めれば、海外旅行でちょっとした贅沢ができるくらいの金額になるわけですが、その重みが意識されることはあまりありません。
こうした意識の希薄化と並行して、組織としての労働組合も縮小傾向にあります。厚生労働省の『令和7年版労働経済の分析』(労働経済白書)によれば、労働組合員数および雇用者に占める組合員の割合である推定組織率は、年々減少しています。
一方で、パートタイム労働者の組合員数は過去最高を更新しており、非正規雇用労働者の受け皿としての役割がうかがえるものの、組織全体としては下降傾向にあるのが実情です。
■いったい「どこにあるのか」「何をしているのか」
そもそも、労働組合という組織自体が、働く人々にとって「どこにあるのか」「何をしているのか」がわかりにくい存在になっているという問題もあります。
多くの大企業では、労働組合は本社ビルの一角などに専用の「組合事務所」を構えています。しかし、その場所を正確に知っている従業員は、組合役員や活動に熱心な一部の人を除けば、驚くほど少ないでしょう。
何か困ったことがあって相談しようにも、まず「どこに行けばいいのかわからない」という壁にぶつかってしまいます。
時々配られるチラシや冊子も、組合からのお知らせなのか、会社の人事部からのお知らせなのか、あるいは社内報なのか機関紙なのか、その区別がついていない従業員も珍しくありません。
入社時に組合についてきちんと説明する機会が設けられているかどうかも、企業によって大きく異なります。入社オリエンテーションの一環として、組合の委員長や書記長が活動内容を説明する時間を確保できているのは、比較的恵まれたケースです。
会社側からは「研修で手一杯だから組合の時間は取れない。そちらでやってくれ」と言われ、説明の機会をまったく持てない組合も少なくありません。
最初の接点すら持てないまま、いつの間にか組合員になり、いつの間にか組合費が引かれている。そして、自分が組合員であることすら意識しないまま、日々を過ごしていく――。人々の意識から、労働組合という存在が静かに、そして確実に消えていく。これが、私たちが今直面している、紛れもない現実です。
では、労働組合の活動・広報が不足していたからこのような状況になったのかというと、決してそうではありません。急激な時代の変化、技術の進歩による環境的な要因も大きく関係しています。
■「有事」のタイミングに存在価値が増す労働組合
労働組合の存在価値が最も高まるのは、会社の経営が傾いたり、経営者が不正を働いたり、従業員の働く環境が著しく脅かされたりする、いわば“有事”のタイミングです。
2023年、Googleが世界規模での大規模な人員削減を発表した際には、日本法人の社員も退職勧奨の対象となりました。これに危機感を抱いたGoogle Japanの社員たちが、同法人として初めての労働組合を結成しました。
また、ある労働組合では、会社の経営への不安が高まった時期に、労働組合への加入者が1週間で5倍以上増えたという話もありました。これら最近の事例が示しているとおり、自分の働く場所が危うくなったとき、人々は初めて団結し、対抗する手段として労働組合に関心を向けます。
しかし、今の日本で、そこまでの危機感を抱かせるような事態は、かつてに比べて起こりにくくなっています。その根底には、「そもそも、労働組合に頼らなければならないほどの切実な不満がなくなってきている」という、日本社会の労働環境の変化も影響しているように感じます。
■ほどほど恵まれた労働環境、そこそこ安定した労使関係
もちろん、今でも多くの人が、仕事や職場に対して何らかの不満を抱えています。『連合および労働組合のイメージ調査2026』でも、有職者の59.2%が「不満がある」と回答しており、その筆頭は「賃金が低い」(28.3%)です。
しかし、かつて労働運動が激しかった時代に問題とされたような、「上司から灰皿が飛んでくる」「理由もなく蹴飛ばされる」といった、人権を無視したような劣悪な労働環境は、現代の日本ではさすがに稀になりました。
コンプライアンス意識の高まりや、SNSによる“告発”のリスクもあり、企業側も無茶な働かせ方ができなくなってきています。よくも悪くも、多くの職場が「ほどほどに豊かで、ほどほどに平和」な状態にある。だからこそ、労働組合に“団結して何かを勝ち取ろう”という強い動機が生まれにくいのです。
この「ほどほどの安定」は、労使関係そのものにも表れています。厚生労働省の『令和6年労使コミュニケーション調査』によると、自社の労使関係について「安定的(「安定的に維持されている」と「おおむね安定的に維持されている」の合計)」と認識している事業所は86.2%にものぼります。
これは労働者側の認識も同様で、労使コミュニケーションが「良い」と回答した労働者は55.8%と、「悪い」(8.9%)を大きく上回っています。対立よりも協調。これが、現代の労使関係の基本的な姿と言えるでしょう。
■現代ならではの課題は、まだまだ山積しているはず
こうした状況は、労働組合の活動内容にも変化をもたらしています。
春季生活闘争(春闘)においても、かつてのように多岐にわたる要求項目を掲げる組合は減ってきました。
育児・介護休業制度は法制化され、各種手当も充実し、サービス残業も厳しく監視されるようになった今、「賃上げ以外に、いったい何を会社に要求すればいいのか?」と、頭を抱える組合も増えています。
会社側からも、「原資のかかるベースアップをのんでやるのだから、他の細かい要求はしてくるなよ」という無言の圧力がかかり、結果として交渉のテーマが賃金に集中しがちになる、という側面もあります。
もちろん、この「ほどほどの安定」が、すべての働く人にとって満足のいくものであるとは限りません。非正規雇用の問題や、巧妙化するハラスメント、将来への漠然とした不安など、現代ならではの課題は山積しています。
しかし、かつてのように「団結して戦わなければ、自分たちの生活や権利が守れない」という切迫感が薄れていることは事実です。労働組合が“空気のような存在”と表現されることがあるのも、ある意味では、日本の労働環境がそれなりに成熟し、安定したことの裏返しなのかもしれません。
問題は、その“空気”が本当に必要なときに、人々がその存在を思い出し、活用することができるのか、という点にあります。
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