【医師が解説】“明らかに調子が悪い”のに病院で「異常なし」と言われてしまう真因 検査で現れない「不調」の正体は?(東洋経済オンライン)
51 分前

明らかに体の調子が悪いのに、何度、病院で検査しても「異常はありません」「特にどこも悪くありません」と言われてしまう――そんな原因不明の不調に悩まされる人が増えています。内科クリニック院長を務める前島圭佑さんは、「検査で異常がないからといって、体に問題がないわけではありません」と言います。
本稿では『わかっているのに、なぜ体にいいことが続かないのか』から一部抜粋・再構成のうえ、検査数値に出てこない「機能性障害」の捉え方と、不調との向き合い方をお伝えします。
■異常は見当たらないのに不調という事実
本稿を通じてぜひ知っていただきたいのが、「機能性障害」という病気の捉え方です。
この概念を理解するだけで、「長年の不調の謎が解けた」とおっしゃる患者さんを、私はこれまで数多く見てきました。
私たちが「病気」と聞いて真っ先に思い浮かべるのは、おそらく「体のどこかが壊れている状態」ではないでしょうか。
胃に穴が開く胃潰瘍、肺に炎症が起きる肺炎、あるいはがんであれば腫瘍という「形」の異常が検査ではっきりと確認できます。
このように、臓器や組織の「形」に目に見える異常がある病気を、「器質性障害」と呼びます。
器質性障害は、車で言えば、ボディがへこんでいる、タイヤがパンクしている、ガラスが割れているなどのような状態です。
見れば、どこが壊れているかがわかります。
これに対して「機能性障害」は、胃カメラで見ても胃はきれいで、血液検査をしても異常値は出ない。レントゲンやCTを撮っても異常は見当たらない。
それなのに、胃の調子が悪かったり、体がだるかったり、痛みが続いたりする。
車で言えば、外見はピカピカなのにエンジンのかかりが悪い、アクセルの反応が鈍い、ブレーキの効きが不安定、という状態です。
見た目には大きな故障がない。けれど、明らかに本来の働きができていない。
これが機能性障害です。
■「異常なし」=「つらくない」ではない
では、なぜこうした「働きの不具合」は、診察室で十分に説明されにくいのでしょうか。
その理由の一つは、現代医学が主に「目に見える変化」や「測定できる数値」に注目して発展してきたことにあります。検査で「異常」が見つかれば、根拠をもって診断を下し、治療方針を立てることができます。
これは現代医学の大きな強みです。
一方、機能性障害の場合はこうした手がかりが極めて乏しいのです。
そのため、患者さんがつらい症状を訴えても、「検査では特に問題ありませんね」「少しストレスが溜まっているのかもしれませんね」という説明にとどまることが少なくありません。
これは決して、医師が怠慢だったり、患者さんの苦しみを軽視しているわけではありません。現在の医学教育や診療システムでは、この「目に見えない不調」を十分に言語化し、共有することがまだできていないという側面があるのです。
では実態はどうでしょうか。
内科のクリニックを訪れる患者さんのうち、およそ3人に1人(約3割)が、この機能性障害の可能性を秘めた悩みを抱えているとする報告があります。
私自身、一般内科の外来を担当していた際、想像以上に多くの方が「検査に現れない不調」に悩まされていることに驚いた経験があります。現場の感覚からしても、この「3割」という数値は決して大げさなものではありません。
ここで強調したいのは、「検査で異常がない」という結果は、決して「あなたは完全に健康です」という意味ではないということです。
あなたが実際に感じている体のつらさや不調は、紛れもなく「本物」です。
「気のせい」でもなければ、「怠けている」わけでもありません。
あなたの体は、目に見えない形で、確かにSOSサインを発しています。
■「目に見えない不調」を包括的に捉える動き
本稿では「機能性障害」というシンプルな言葉を使っていますが、この概念の背景にある医学の動きについて、少し触れておきます。
これまで、機能性障害に関わる病気は各専門科がそれぞれの病名で対応してきました。
お腹の不調なら「過敏性腸症候群(IBS)」や「機能性ディスペプシア(機能性胃腸症)」。
原因不明の全身の痛みなら「線維筋痛症」。取れない疲れなら「慢性疲労症候群(筋痛性脳脊髄炎)」。ほかにも「起立性調節障害」「月経前症候群(PMS)」「更年期障害」「顎関節症」「過換気症候群」などがあります。
いずれも、機能的な乱れ――自律神経やホルモンの乱れ――が症状に深く関わっています。
この中に、あなたが診断を受けたことのある病名はないでしょうか。
あるいは、いくつもの科を渡り歩いた経験はないでしょうか。
医学の世界でも、これらを専門科の壁を越えてまとめて捉えようという動きが進んでいます。「機能性身体症候群(FSS:Functional Somatic Syndromes)」という概念がそれです。
痛みや倦怠感、消化器症状などの身体的な苦痛が持続し、日常生活に支障をきたしているにもかかわらず、検査では器質的な異常が見つからない。
そうした状態を包括的に捉える考え方です。本稿で「機能性障害」と呼んできたものは、この機能性身体症候群とほぼ重なります。
■不調をどう理解し、整えていくか
近年、WHOの新しい国際疾病分類(ICD–11)では、「身体的苦痛症」という枠組みも導入されました。「検査の数値がどうか」よりも「その症状のせいで、どれだけ生活に困っているか」を重視する考え方です。
これまで専門科ごとにバラバラに扱われてきた「見えない不調」を、ひとまとまりの問題として捉え直そうとする動きの一つと言えるでしょう。
なお、機能性障害は「ある/ない」の二択ではなく、グラデーション(連続的な濃淡)です。先ほど挙げた病名がつくのは、グラデーションの濃い端のほうにあるものです。
けれど実際には、どの診断基準にもぴったり当てはまらないものの、確かに不調を感じている、という方が数多くいらっしゃいます。
「病名がつかない=問題がない」ではありません。グラデーションの薄い段階で体のサインに気づき、生活を見直すことこそが、濃い方向へ進まないための最大の予防策です。
もちろん、「検査で異常がない不調」が、すべて機能性障害だというわけではありません。機能性障害は、「検査を受けなくてよい」という意味でもありません。
必要な検査で重大な病気がないことを確認したうえで、それでも残る不調をどう理解し、どう整えていくか。
そのための入り口として、機能性障害という考え方を役立てていただきたいと思っています。
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