売春「買う側」も処罰で“40万人”困窮か? 防止法改正で「恐喝」被害急増のおそれも【弁護士解説】(弁護士JPニュース)
39 分前

法務省の有識者検討会は、現行の売春防止法で処罰対象外となっている「買う側」の勧誘行為などへの罰則を盛り込んだ報告書案をまとめた。今秋の臨時国会への改正法案提出に向け、その動きは加速している。
今回の改正における最大の焦点は、現行法における「売る側」と「買う側」の責任の不均衡だ。現在は「売る側」の勧誘や客待ちのみが処罰の対象となっており、「買う側」に罰則がないのは法制度としてバランスを欠くという認識が背景にある。
一方で、成人間の合意に基づく売買春行為に対する法的介入は、「個人の自由」の侵害にあたる可能性が高いため、慎重を期すべきだという意見も根強い。依然として多角的な議論が求められている問題である。
「買う側」を処罰する方向での法改正にはどのような問題点があるのか。性風俗の法律問題に詳しく、法務省の有識者検討会にも参加しているグラディアトル法律事務所の若林翔弁護士に話を聞いた。(ライター・中山美里)
法務省の有識者検討会は、現行の売春防止法で処罰対象外となっている「買う側」の勧誘行為などへの罰則を盛り込んだ報告書案をまとめた。今秋の臨時国会への改正法案提出に向け、その動きは加速している。
今回の改正における最大の焦点は、現行法における「売る側」と「買う側」の責任の不均衡だ。現在は「売る側」の勧誘や客待ちのみが処罰の対象となっており、「買う側」に罰則がないのは法制度としてバランスを欠くという認識が背景にある。
一方で、成人間の合意に基づく売買春行為に対する法的介入は、「個人の自由」の侵害にあたる可能性が高いため、慎重を期すべきだという意見も根強い。依然として多角的な議論が求められている問題である。
「買う側」を処罰する方向での法改正にはどのような問題点があるのか。性風俗の法律問題に詳しく、法務省の有識者検討会にも参加しているグラディアトル法律事務所の若林翔弁護士に話を聞いた。(ライター・中山美里)
若林弁護士は今回の売春防止法改正案に対して反対の立場を示している。その大きな理由として「風俗店の営業への影響」や「犯罪の温床化」に対する懸念を挙げる。
「売春・買春自体が犯罪ということになると、当然、客の足は風俗店から遠のくと予想されます。現在、風俗産業で働く従業者はキャストだけで40万人以上とも言われています。さらに、キャストのみならず店長、店員、広告代理店などの関連業種を含めると、さらに多くの方々が働いており、そこで働く人々の生活に大きな影響が出るというのが第一の懸念です。
もっとも、現在の報告書案では、売春・買春自体の犯罪化ではなく、売春の勧誘行為に対応した買春の勧誘行為の犯罪化に絞られておりますので、風俗産業やそこで働く人々への影響は最小限に食い止められる内容になっているかと思います」(若林弁護士)
懸念は他にもあるという。「買う側」への締め付けにより「売春の地下化」が進み、犯罪の温床化が進む可能性である。
「買春が犯罪ということになれば、それが売春の現場で男性をゆする材料となるのは自然の流れです。不同意性交等罪の成立以降、それをチラつかせての美人局(つつもたせ※)が急増しています。そういった犯罪の構造を形成する原因となる可能性があります」(若林弁護士)
※女性が男性を誘惑し、その男性が肉体関係を持った(または持とうとした)弱みにつけ込み、共犯の第三者と組んで金銭を脅し取る犯罪(恐喝罪、強盗罪、詐欺罪など)
最近では、東京都内で少年少女5人のグループが男性会社員に殴る蹴るの暴行を加えた上、現金を奪う事件が起こり、9月2日に強盗致傷容疑で逮捕されている。
このケースではグループの1人である15歳の少女が男性を誘惑してホテルに入り、その後、ホテルから出てきた男性を他の4名が脅している。15歳の少女との性行為は不同意性交等罪にあたるため、男性に犯罪行為が成立するということを悪用した美人局の手口である。
買春者が逮捕される制度が導入されれば、このような美人局がさらに増える可能性がある。
「また、売買春自体を規制してしまうと、たとえば女性が売春時に盗撮被害に遭った場合などに、(自身が罪を犯しているため)警察に届けづらくなるといったことも予想されます」(若林弁護士)
なぜ、女性たちが売春に関わる犯罪の「被害者・加害者」の両面から巻き込まれるリスクが予見されるにもかかわらず、法改正が進められようとしているのか。
「その要因は、法改正を推進する側の人々の認識と、実際に売春に携わる女性たちの実態との間に大きな乖離があることです。
売春防止法の改正を推進する人々は当事者の話を直接聞いたり、実地調査をしたりといった現状の調査よりも、統計などの数字データを偏重する傾向があります。
また、『売春や風俗業といった性産業は生活のために嫌々やらされているものであり、好きでやっているわけがない。したがって、搾取されている女性が多数を占めるはずだ』という誤解を含んだ思い込みが感じ取れます。
しかし現実には、嫌々従事している女性ばかりではありません。 良い生活をしたい、ブランド品を購入したい、海外旅行にいきたい、あるいは単にセックスが好きだからといった理由や目的のために、自ら進んで性産業を選んでいる女性も数多くいます。
つまり、『自分が求めるだけの金額を今の仕事だけで得ることはできない』と考え、自身の欲する収入と働き方とを比較検討したうえで、主体的に選択している人も存在するのです」(若林弁護士)
さらには、当事者の実態を置き去りにした法案の改正は、女性の保護を謳いながらも、かえって彼女たちを追い詰める危険性をはらんでいると危惧する。
「現実社会の実態に則さないまま売春防止法の改正を進めることは、『女性を守りたい』というスローガンの裏で、結果として女性たちから仕事を奪い、貧困化させてしまうという大きな矛盾を抱えていると感じます。
生活に困窮して売春に従事している女性を救いたいのであれば、仕事そのものを奪うのではなく、別の有効な支援策を講じるべきです」(若林弁護士)
若林弁護士が早急な法案改正を懸念する背景には、2022年に施行された「AV新法(AV出演被害防止・救済法)」の教訓があるという。
「AV新法によって適正なAVに出演する女優たちを過度に締め付けた結果、正規の収入が減少し、同人の無修正動画への出演などに流れてしまうケースが増えてしまいました。売春防止法の改正でも、それと同じような悪影響が起きるのではないかと心配しています」(若林弁護士)
もっとも、若林弁護士は「売買春や性風俗産業に対する対策が一切不要だ」と考えているわけではない。
「法律のもとで、場所の提供や不当な斡旋に関与する業者を取り締まることには、一定の合理性がある」というスタンスである。
「たとえば、風営法のもとで営業する風俗店という枠組みと、現実に行われているソープランドという形態の間には、明らかな矛盾が存在します。理想を言えば、売春を合法化し、国が管理する形にするのが望ましいのではないかと考えています。
売買春行為の合法化に向けては『現在の売春防止法の廃止』や『風営法の改正』などいくつかの方法が考えられますが、手始めとしては『“勧誘罪”(※)の撤廃』が最も現実的なアプローチではないでしょうか」
※単一の罪名は存在しないが、売春の勧誘(売春防止法違反)や淫行の勧誘(刑法違反)、迷惑防止条例違反の客引きなどが「勧誘に関する罪」として処罰される
社会の実情に合致しないまま法改正が施行されれば、かえって実社会に悪影響を及ぼす恐れがある。法案改正の議論を進めるにあたっては、慎重かつ入念な吟味が求められる
1977年、東京都生まれ。一般社団法人siente代表理事の傍ら、性風俗や女性の生き方などを中心に雑誌、WEBで取材・執筆を行う。性風俗関連の著書多数。
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