Web制作の現場で「新人AI」は戦力になるか? 開発者とベテランが語るBacklog AIの育て方(アスキー)
55 分前

プロジェクト・タスク管理ツール「Backlog」に日々蓄積される“プロジェクトや業務の記録”を、ナレッジとして引き出せる「Backlog AIアシスタント」。このエージェントは、Web制作の現場でどのような力を発揮するのか。
Backlogユーザーが運営するコミュニティ「JBUG(Japan Backlog User Group)」では、エリア別の開催に加えて、職種やテーマ別の分科会も開かれている。今回レポートするのは、2026年8月に開催されたWeb制作やクリエイティブ職種が集う「JBUG Creative」の第4回である。
当日は、ヌーラボの開発者およびユーザー企業であるアイスリーデザインとサービシンクの2社から、「Backlog×AI」のリアルな実践知が共有された。
AIアシスタントは“今日入社したばかりの新メンバー”
まずは、ヌーラボの開発者・渡邉祐一さんが、Backlog AIアシスタントの仕組みと運用のヒントを解説してくれた。
Backlog AIアシスタントは、2026年3月にリリースされたBacklogに組み込まれたAIエージェントだ。Backlog内の課題やコメント、ドキュメントなどを読み取り、チャットベースでプロジェクト進行やタスク管理を支援してくれる。
ユーザーが質問すると、AIがその意図を汲んでBacklog内のデータに対する「ツール(課題の読み取りやドキュメント作成などの操作)」を選択。データを学習しているわけではなく、実行する都度、Backlogを「見に行っている」のがポイントだ。渡邉さんは、これを、「フットワークが軽いが、こちらが教えていないことは知らない、“今日入社したばかりの新メンバー”」だと表現する。
また、Backlog AIアシスタントの振る舞いは、予め与えられた指示書(システムプロンプト)で制御されている。例えば、「先週完了した課題と進行中の課題の進捗をまとめて」と頼まれた場合、“完了・進行中の課題を検索し、期限は取得済みの日付で判定して、テーブル形式で出力せよ”という指示が動く。他にも、“推測で答えず、ヘルプセンターへ案内せよ”といった指示を組み込むことで、ハルシネーションを抑える工夫も施されている。
「このように、ブレやすい判断基準をあらかじめ人で決めておく。これはまさに、新メンバーを受け入れる“オンボーディング”に近い」(渡邉さん)
権限周りの設計もシンプルだ。AI専用の権限は設けず、あくまで依頼したユーザーの権限の範囲内でデータを取得する。また、課題やドキュメントの作成・更新・削除といった「書き込み」系のツールでは必ず人間の承認を挟み、ボタンが押されるまでサーバー側で実行を止める仕組みになっている。これも、新メンバーにいきなり強い権限を与えないのと同じ感覚だと言えるだろう。
開発者が語る「今日から使える」4つのヒント
では、そんな“新メンバー”Backlog AIアシスタントと、我々はどう付き合っていけばよいのか。渡邉さん視点での4つのヒントが披露された。
1つ目は「依頼は具体的に」だ。Backlog AIアシスタントは、ユーザーの言葉をBacklogの「検索条件」に翻訳して動く。例えば「“やばい”課題ある?」と聞いても、そんな条件は存在しない。そのためAIは、“期限切れ”“停滞”といった条件を推測して補うことになる。だからこそ、Backlogにある言葉(プロジェクトや状態、期限など)を条件にすることで、振る舞いが安定する。
ただ、すべての条件を言葉にする必要はないという。AIは「今開いている画面」を認識しているため、そこが検索対象であれば指示に含めなくても大丈夫だ。加えて重要なのは、条件にプラスして「期限が近い順に表で」「決まったことと残っていることを分けて」といった“欲しい出力形式”を伝えることである。
2つ目は「報告は根拠つきで受け取る」だ。回答に添えられた課題キー(実物へのリンク)を1つ開き、依頼の言葉が適切だったか確かめてみる。他にも「どういう条件で探しましたか?」と問いかけると、AIが使用した検索条件を教えてくれるため、推測のズレを確認できる。
3つ目は「学習しない設計だからこそ文章で渡す」だ。過去に教えた内容を記憶しない設計になっているため、コンテキストの受け渡しに「ドキュメント」を活用するのが効果的である。例えば、課題起票のルールをドキュメントに書き、保存しておけば、繰り返しの作業でも「このドキュメントに従って起票して」と頼むことができる。
「様式だけなら課題テンプレートを見て整えてくれるが、ドキュメントを渡す価値は、優先度や担当の割り当てといった判断基準まで反映されること。いわば、普段書いているBacklogのドキュメントが、そのままAIの“スキル”になる」(渡邉さん)
4つ目は「大きな仕事は、分けて頼む」だ。Backlog AIアシスタントは、ユーザーの暴走やコストの高騰を防ぐため、一度のやりとりでの入出力の量や動ける手数に上限が設けられている。そのため、月・週ごと、あるいはプロジェクトやマイルストーン単位に分けて依頼をすることが、途中で処理を止めないためのコツとなる。
渡邉さんは最後に、「AIアシスタントは、これまでチームのために積み重ねてきた“Backlogの整備活動”にそのまま従う。つまり、皆さんの育ててきたBacklogそのものが、AIの品質を高める一番の土台となる」と締めくくった。
プロジェクト達成のための“リズム”をBacklog×AIで学ぶ
続いては、ユーザー企業の登壇を紹介する。アイスリーデザインの平光蔵さんがPM・ディレクター観点から語ったのは、プロジェクトの「リズム」を体に取り込むためのBacklog AIアシスタント活用術だ。
ここで指すリズムとは、マイルストーンの達成に向けた「段取り」を意味する。1年におよぶプロジェクトであれば月1回のゲートレビューが重要になり、短期プロジェクトであれば週次のスプリントレビューが必須となるなど、規模や制約によって最適なリズムは異なる。平さんは、「計画段階でこのリズムが掴めると、プロジェクト全体の把握が一気に容易になる」と語る。
平さんがこうした考えに至った背景には、ディレクターになりたての頃の苦い経験がある。それは3か月のプロジェクトで、最初の3週間で要件定義書を作成する計画を立てていた。「しかし当時は、この期間内で『いつ・何を・どこまでやるか』という合意形成のイメージを持てないままスタートしてしまった。ずるずると物事が決まらず、結果として迷惑をかけてしまった」と振り返る。
その後、リズムを身に着けるために、時には痛手を負いながら実践を重ねると共に、過去のBacklogの課題や資料を片っ端から読み込んだという。ただ、後者の「過去のプロジェクトを学ぶ」というアプローチは、とにかく時間が必要だった。
そこで活用しているのがBacklog AIアシスタントだ。平さんが披露したのが、今年初めて運営に加わった「Backlog World 2026」での実践例である。イベント運営の経験がゼロの平さんは、去年のプロジェクトについてAIに探らせた。担当であるノベルティ関連のタスクが「いつから始まり、何をしたか」が明らかになったほか、今年の概要を伝えた上でマイルストーンまで作成してもらえたという。
「キャッチアップの初動が圧倒的に速くなった。特にすごいと思ったのは、出力結果を今年度のドキュメントに転記してくれたこと。年次の更新やキャンペーン対応の引継ぎでも役立つのではないか」(平さん)
こうしたAIの台頭で「誰もがPMやディレクターをできるのでは」という議論も生まれるが、平さんは否定する。漫画「ウイングマン」で、願望を叶えるノートでヒーローになった主人公が、中学生の鍛えていない体では十分に戦えなかった――というエピソードを引き合いに出した。
「自分自身に力がなければ、結局はAIも正しい効果を生み出せない。 適切な指示が出せる力、出力結果の正誤を判断できる力が非常に重要になってくる」(平さん)
もっとも、AIが経験の少ないディレクターの“強力な武器”になるのは確かであり、何より「他社の経験」を自分の中に取り込みやすい環境が生まれているという。
“レベル別”のBacklog×AI実践 正しく運用すればAIが“よしなに”動く時代に
2番目に登壇したサービシンク代表の名村晋治さんは、Backlog歴20年目を誇るベテランユーザーだ。3つの活用レベルに応じたBacklog×AI活用について語られた。
レベル1は、Backlog標準のBacklog AIアシスタントの活用である。対象プラン(プレミアム・プラチナ)であれば、管理者がスペースで有効化するだけで導入完了。名村さんは、「Backlogを開いて、分からないことがあればとりあえず聞く」という状態に持っていくまでのハードルの低さが魅力的だという。
AIに情報を渡す工程も、プロンプトを練る必要もなく、その場ですぐに答え合わせできる。何より「この情報をAIに入力してよいのか」という懸念が、前述のとおり仕組みとして解消されている点が大きい。「余計な周り道をせず、素直にBacklogのAIを使うのが一番の近道」だと名村さん。
そして、名村さんが「本命」とする活用法が、AIによる課題の一括登録だ。プロジェクト計画の概要をまとめておくことで、AIにタスクの分解から課題の登録までを任せられる。WBSなどのたたき台をゼロから書く手間が省けるだけではなく、計画の品質が「担当者の経験値」に依存しなくてもよい点もメリットだ。「これのPM視点での本当の価値は時短ではなくて“標準化”。抜け漏れやミスがなくなり、品質が作業者に依存しなくなる」(名村さん)
レベル1.5は、自作による小さな自動化であり、GAS(Google Apps Script)とBacklog APIの組み合わせが披露された。
名村さんがGASをピックアップした理由は、自前の「実行環境」を必要としないからだ。Googleのサービスを契約していれば、cron処理のような定期的に動くプログラムを自動運用できる。GASのコード自体は、生成AIに相談しながら作成できるため、「期限切れの課題をSlackに通知する」といった仕組みをプログラミング未経験者でも十分に構築可能だ。
そして、エンジニア向けの高度な活用であるレベル2は、「MCP×AIエージェント」だ。ヌーラボは、2025年5月にBacklogの公式MCPサーバーを実装しており、普段利用するAIツールをBacklogへ直接接続できる。
対応する操作は幅広く、課題の取得・作成・更新・削除まで一通りの操作が行える他、ドキュメントも処理可能で、gitも扱える。さらに、ターミナルからBacklogを操作するCLIツール「bee」(非公式サポート)も用意されている。
このように、開発者を含めさまざまなアプローチが可能なBacklog×AIだが、いくつか注意点がある。まず、技術的な制約として、Backlog APIにはレート制限が存在し、Backlogと連携するAIツール側にもトークンの制限がある。
また、AIに編集権限を渡したままMCPを運用すると、意図しないデータの消失といった大事故を引き起こすリスクがある。CLAUDE.mdなどに「起票・更新・削除は、明示的に依頼がない限り実行しない」と明記したり、削除系のツールを予め遮断するような設定をしたりと、安全策を講じておくことがポイントだ。
最後に名村さんが訴えたのは、AIの精度を上げるには「Backlogに情報を書き込むこと」が何より重要だということだ。Backlogは、課題・ドキュメント・Git・ガントチャートなどが一か所に集約され、AIに渡せるコンテキストが極めて「濃い」ツールである。しかし、裏を返せば、Backlog内にある情報以上の回答は得られない。名村さんの会社では、仕様の決定や調査結果などをチャットに流さずに、すべてBacklogに書くことを徹底しているという。
「そもそもBacklogなどのプロジェクト管理ツールは、“課題を忘れるため”のツール。 人間が記憶に頼っている限り、プロジェクトは破綻する。生成AIが進化した今だからこそ、なおさらBacklogに情報を集約すべきといえる。きちんと運用さえしていれば、生成AIが後はよしなにしてくれる時代になった」(名村さん)
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