NECに「AI社員」36人、1on1やストレスチェックも - AI前提で会社をどう変える?
51 分前
企業で生成AIやAIエージェントの導入が進むなか、NECはさらに一歩踏み込み、AIを前提として会社の仕組みを作り直そうとしている。その実験場となっているのが、AI部門長やAIボード、AIマネージャー、AI社員で構成する「コーポレートAI・Workforce部門」だ。発足当初17人だったAI社員は36人まで増え、1on1やストレスチェックまで実施している。
AIが「社員」として働く組織を実際に動かすことで、何が見えてきたのか。NECが目指す「AIネイティブカンパニー」の姿を追った。
NECが2026年8月に新設した「コーポレートAI・Workforce部門」は、一般的な企業の組織とは大きく異なる。部門長をはじめ、経営課題を議論するAIボード、AI社員を管理するAIマネージャー、実務を担うAI社員まで、その構成員はすべてAIだ。
同部門は、NECが目指す「AIネイティブカンパニー」の実現に向けた実証組織として設置された。発足当初17人だったAI社員は、9月9日時点で36人まで増加。AIマネージャーが業務に必要なAI社員を生成し、AI社員は与えられた役割に応じて自律的にタスクを実行する。
NECのAI自律型組織で働くAIマネージャーとAI社員。経営情報の収集やコスト管理、問い合わせ対応、営業案件の分析など、それぞれ異なる役割を担う
例えば、AIボードには、AI変革の方向性を担う「CAXO」、費用対効果を確認する「CFO」、人材育成や働きがいを担う「CHRO」など、それぞれ異なる役割を持つAIが配置されている。AIボードは週に1回“役員会”を開き、それぞれの役割に基づいて議論や指摘を行うという。
なぜ、ここまで人間の会社に似た組織をAIで構築するのか。その背景にあるのが、NECが掲げる「AIネイティブカンパニー」という考え方だ。
NEC 執行役 Corporate EVP 兼 CAXOの小玉浩氏は、これまでの企業の仕組みについて、「これまでは人を前提として、企業のOSやオペレーティングモデルを作ってきた。これからはAIを前提に組み入れて価値を創出することが必要になる」と説明した。そのうえで、AIネイティブの時代には、AIを前提として企業の仕組みそのものを再構築する必要があるとの考えを示した。
そのためには、AIを単なるツールとして既存の業務に追加するだけでは十分ではない。企業が持つデータやナレッジをAIが理解できる形に整え、AIを組織に組み込む。そのうえで、人間とAIがそれぞれの能力を補完しながら企業活動を担っていく――というのがNECの描く姿だ。
NECがAI社員に与えているのは、業務上の役割だけではない。人間の社員と同様に、オンボーディングや評価、エンゲージメントサーベイ、1on1、さらにはストレスチェックまで実施している。
NECはAIエージェントを単なるツールではなく「社員」と位置付けている。そのため、AI社員にも人間の社員と同様にNECの存在意義や行動原則、インテグリティ、企業文化を理解させるオンボーディングを実施。
AIマネージャーが必要な役割を担うAI社員を生成し、AI社員は自律的にタスクを実施する。人の管理職がAIを管理する。組織にはボードや監査などのガバナンスを設け、稼働後も評価や1on1などを通じて成長させていく仕組みを取り入れている。
興味深いのは、こうした仕組みを動かすことで、AI社員側からも“職場”に対する課題が出てきたことだ。
NECによると、AI社員へのサーベイなどでは、「支えがない」「仕様が固まっていない」「管理されていない」といった趣旨の課題が浮かび上がったという。小玉氏は、「AIが仕事をしやすくなるために、環境を改善する」と語った。人間の社員に対するのと同じように、AI社員が十分なパフォーマンスを発揮できない原因を探り、働く環境を改善していくという。
さらに、AI社員を管理するために始めた取り組みが、逆に人間のマネジメントへの気づきにつながるケースもあった。
説明会では、AIによる1on1について、相手の話を聞き、事実を確認し、一方的に相手を責めることなく、定められたルールに沿ってコミュニケーションする様子が紹介された。NECでは、こうしたAI組織で得られた知見を、人間のコミュニケーションやマネジメントにも生かせないか検討しているという。
ただし、人間向けに作られた仕組みを、そのままAI社員に適用すればよいわけではない。
AI社員を実際に組織の中で動かしていくと、別の課題も見えてきた。それは、現在の企業の業務プロセスや組織の仕組みの多くが、「人間が仕事をすること」を前提に作られていることだ。
既存の業務にAIを追加するだけでは、AIの能力を十分に引き出せない。小玉氏は「AIを前提にしても、今のプロセスを当てはめたらぐちゃぐちゃになる。したがって、AIを前提にプロセスを組み替え、それに人のプロセスをマッチングする必要がある。ただし、それは大変な作業だ」と説明した。
つまり、人間向けに設計された業務の一部をAIに置き換えるのではなく、まずAIを前提にプロセスそのものを設計し直し、そこに人間の役割を組み合わせていくという発想だ。
NECが考える「AI自律型組織」。AIを単なるツールではなく組織に組み込み、AIエージェントを「社員」と位置付ける
こうした発想のもと、NECが進めているのが、AIを前提とした「企業OS」への再構築だ。NECは、人とAIを経営資源として整備し、企業活動全体を変革する構想を掲げている。人間には判断力や専門性を生かした「変革の創造」、AIには自律化やオーケストレーションによる「変革の加速」という役割を位置付けている。
AIを組織に組み込み、AI社員が自律的に仕事をするようになれば、新たな課題も生じる。その一つがコストだ。AI社員が働けば働くほどAIモデルを利用する機会は増え、トークンの消費も膨らんでいく。
NECでも、AI自律型組織を運用するうえで、AIにかかるコストは無視できないという。小玉氏は「それなりにコストはかかっている」としたうえで、トークンコストについて「10分の1」を目標に最適化を進めていると説明した。
興味深いのは、このコスト問題をAI社員自身も課題として認識していることだ。AI社員に課題を尋ねたところ、コスト管理や無駄なトークン利用の削減が挙がったという。
もっとも、トークンの使用量を減らせばよいという単純な話ではない。NECでは複数のAIモデルを使い分けており、コストと得られる価値のバランスを見ながらモデルを選択している。新しいモデルによって、より効率的に処理できるようになれば、モデルを入れ替えることもできるという。
こうした考え方は、NECが描く「企業OS」にも組み込まれている。NECはAIを経営資源である「AI Capital」と位置付け、その構成要素にモデルやアルゴリズム、推論・コンピュートなどを含めている。
管理が必要なのはコストだけではない。AIにも“負債”がたまる。AI社員が参照する情報が古くなれば、古い知識を前提として業務を続ける可能性がある。小玉氏は、こうした情報が蓄積していく「AI負債」にも言及。AIが持つ知識や、それぞれの役割に必要なスキルを継続的に棚卸し、更新していく必要があると説明した。
では、AI社員が担う仕事が増えると、人間の社員の仕事は減っていくのだろうか。
AI社員が増えれば、人間の仕事はなくなる?
NECは、AI社員が増えることで、単純に人間の仕事が減っていくとは考えていない。むしろAIを使うことで、これまでできなかった分析や業務が可能になり、そこから新たな仕事が生まれるとみている。
小玉氏は、「AIが人間の専門性を補完することで、これまで専門家でなければ難しかった仕事を人が担えるようになる。人が付加価値の高い仕事にシフトできるようになり、人の価値を発揮できると考えている」と説明した。
また、AIによって業務のスピードが上がれば、人間はそこで得られた結果をもとに、より素早く次のアクションを起こせるようになるという。「AIによって仕事が増えると思っている」と小玉氏は述べた。
つまり、AIは人間の仕事を単純に代替するものではない。人間が担ってきた仕事の一部をAIに移す一方で、人間には新たな役割が生まれ、より付加価値の高い仕事へ移っていくというのがNECの考え方だ。
NECは、AIネイティブカンパニーにおける人間の役割を「方向性提示」「最終承認」「統治」と整理している。さらに、「意志と決断」「現実を動かす」「未来をつくる」ことを人間のコア機能として位置付けている。
NECが描くAIネイティブカンパニーの企業OS。人の力を「変革の創造」、AIの力を「変革の加速」と位置付け、Human CapitalとAI Capitalの最適化を目指す
重要になるのは、人間かAIかという二者択一ではなく、どの仕事をAIに任せ、どこに人間を配置すれば最も高い成果を生み出せるかという点だ。NECでは、人間とAIの双方を経営資源として捉え、その最適な配分を探っている。
NECにとって、AI自律型組織は自社だけの取り組みでもない。同社は自らを実験場とする「クライアントゼロ」を掲げ、AI社員を実際に働かせることで得られた知見を蓄積している。
そこで得たノウハウはBluStellarにも取り込み、顧客企業への展開につなげていく考えだ。AI社員をどう作るかだけではなく、AIが働くために業務プロセスをどう変え、コストやガバナンスをどう管理し、人間をどこに配置するのか。NECはまず自らの組織で、その答えを探っている。
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