10月から義務化「カスハラ」対策に業界の壁…銀行は拒否できず、ホテルは出禁可能? 正当クレームとの線引きは(弁護士ドットコムニュース)
44 分前

暴言や理不尽な要求で、働く人の就業環境を妨害するカスタマーハラスメント(カスハラ)。10月1日から法律で、企業にカスハラ対策が義務付けられる。法改正の意義や、正当なクレームとカスハラの線引き、企業に求められる対応について、ハラスメント問題に詳しい成蹊大学の原昌登教授(労働法)に聞いた。(ライター・田中瑠衣子)
これまでパワハラ、セクハラ、マタハラは法律で企業に対策を義務付けていたが、カスハラはなかった。なぜカスハラはこれまで法律がなかったのだろうか。
原教授は「日本ではハラスメントが社会問題化すると、対応するために関係の深い法律を改正し、措置を義務付けるという形で対応してきました。カスハラはもともと『悪質クレーム』と呼ばれていましたが、労働組合の取り組みなどを通じて『ハラスメントであり、許されないこと』という共通認識が社会の中で醸成され、今回の法改正につながったと理解できると思います」と話す。
カスハラ対策の義務付けは、改正労働施策総合推進法で定められた。
法律ではカスハラの定義を「顧客、取引先、施設利用者、その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者」が、「社会通念上の許容範囲を超えた言動」により「労働者の就業環境が害されること」とした。
事業主には、カスハラへの対応方針の明確化や周知、相談体制の整備などが義務付けられる。
原教授は法制化の意義についてこう話す。
「カスハラ防止策は、東京都などの自治体が法律に先駆けて、条例を制定しています。国も企業に対策を求めてきましたが、「望ましい」という位置づけでした。今回、法律で義務になることは非常に大きな意味があります。企業の規模を問わず一斉にスタートするので、どの職場でも対策がなされます。社会全体でカスハラ対策が進む、大きな前進です」
企業の責任はどう変わるのか。法律に罰則はないが、防止策を講じない場合、各都道府県にある労働局から指導を受けたり、勧告を受けても何もしなければ会社名が公表されたりする可能性もある。企業の社会的評価に影響するだろう。
「『カスハラ罪』を設けるべきではとの声もありますが、全てのハラスメントを犯罪にすると、全てが警察案件ということになってしまい、現実的ではありません。働く人を守るために企業に防止措置義務を課す仕組みと、民法や刑法の一般的な規定を活用して、ひどいものは犯罪になる。日本のハラスメント対策は、防止措置と民事・刑事責任の二本柱で機能しています」
ただ、企業にとってカスハラ対策は難しさもある。セクハラやパワハラと異なり、カスハラは相手が会社の外にいることや、正当なクレームとどう区別するかといった問題があるからだ。
東京都が、2025年4月のカスハラ防止条例の施行から半年後に行った調査では、「カスハラ対策に取り組んでいない」と回答した企業が約6割だった。取り組まない理由は「正当なクレームとの判断の難しさ」が29.6%とトップ。「ノウハウ不足」(23.8%)、「発生状況の把握が困難」(16.7%)と続いた。
カスハラに当たるかどうかは、内容と態度の2つに注目するといいと原教授は言う。
例えば、「迷惑料」などと根拠のない高額な請求をする(内容)、相手を怒鳴ったり、脅したりする(態度)。どちらかに問題がある場合でもカスハラに当たり得る。両方を踏まえて総合的に判断する。
一方、消費者の立場としては、クレームが“カスハラ認定”されないか気になるところだ。もちろん苦情が全てカスハラになるわけではない。
「防止策の具体的な内容などを定める国の『指針』では、『正当な申入れ』はカスハラに該当しないと書かれています。また、障害のある人が、差別的な扱いを受けないよう求めたり、社会的な障壁を取り除くための対応を求めたりすることも、カスハラには当たりません。企業には合理的配慮が求められます」
カスハラをめぐっては、事業主が従業員を守る対応を怠ったとして、安全配慮義務を問われた裁判例もある。
長崎市内の保育園に勤務していた保育士の自殺を巡り、遺族が運営法人を訴えた訴訟で、長崎地裁は、保護者からの追及対応や業務負担による心理的負荷を背景に、業務と自殺との因果関係を認めた。その上で、カウンセリング未実施や不十分な業務削減などを指摘し、園側の安全配慮義務違反を認定して損害賠償の支払いを命じている(長崎地方裁判所令和3年1月19日判決)。
10月から、カスハラ防止措置が義務付けられることで、裁判所の判断に影響は出るのか。
「裁判所は防止措置義務と安全配慮義務は別のものと考えているので、区別して議論されることが前提です。ただ、理論的には別なのですが、企業がきちんと防止措置をとることで、何かあったときの賠償責任を軽減したり、回避したりする可能性につながっていくかと思います」
原教授は、今後は業種ごとにさまざまな規制等を行う「業法」も関係してくるとみる。
「カスハラ対策を進めようと思っても、業法の規制があり、サービス提供を断ることが難しい業界もあります」
例えば銀行など規制のある業界では、カスハラを理由に、口座凍結など顧客へのサービス提供を断れるのかという問題がある。医師も医師法で診察や治療を求められたときに、拒んではいけないという応召義務があり、一定の制約がある。
一方、飲食店の場合は、出入り禁止などサービス提供を断る対応が比較的とりやすい。飲食業界にはそうした縛りがないからだ。
カスハラへの対応を可能にするため、業法が改正された業界もある。2023年12月施行の改正旅館業法だ。もともとホテルや旅館の事業者は、客が伝染病にかかっている場合などを除き、宿泊を断れなかった。しかし法律の改正で、宿泊料の不当な割引要求や、土下座の要求を繰り返し求めるようなカスハラ客を宿泊拒否できるようになった。
「業法については、それぞれの監督官庁と業界団体の話し合いも必要になるかもしれません。今後、議論していかねばならない問題だと考えています」
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