「丸暗記では学力がつかない」は間違いだった…日本の15歳が「OECD首位」になり、フィンランドが凋落した根本原因(プレジデントオンライン)
51 分前

世界の子どもの学力に異変が起きている。評論家の白川司さんは「日本など基礎を重視してきた国が上位を維持している一方、フィンランドなど自主性を重んじてきた国では学力が低下している。ただし、短文を速く正確に読む力は国に限らず低下傾向にある」という――。
■先進国の学力は過去最低、日本が首位に
経済協力開発機構(OECD)が9月8日に発表した2025年の学習到達度調査(PISA)で、OECD加盟国の15歳の平均成績は「科学コンピテンシー」「数学的リテラシー」「読解力」の3分野すべてで過去最低を記録した。
その中で、日本は3分野すべてにおいてOECD加盟国で首位に立った。3分野そろっての首位は調査開始から初めてのことだ。なお、日本より上位にいるのは、シンガポールや中国、台湾など、OECDに加盟していない東アジアの国・地域だけである。
対照的なのが、かつて「学力世界一」ともてはやされたフィンランドである。今回は数学で22位、読解力で16位にとどまっており、「凋落」と言ってもいい状況にある。
日本とフィンランドの明暗を分けたものは、いったい何だったのか。
イギリスの「フィナンシャル・タイムズ」紙(以下、FT)は、今回の結果を分析し、基礎知識の習得を軽視する教育の流行に乗った国ほど長期的な学力低下が顕著だと指摘している。
いわゆる「フィンランド式教育」は、遊びや自分で調べることなどを通じた学びやテストの削減といった手法で称賛されて、日本でもブームになるほどの人気だった。フィンランドの2006年以降の成績の落ち込みは3教科すべてで先進国最大である。
ちなみに、1990年代のスウェーデンのゆとり教育、2010年に英スコットランドが導入した新カリキュラムも、その後の学力低下の要因とされている。
■「貯金」を使い果たしたフィンランド
筆者はこれまで「フィンランド式教育」については、学力低下を加速させる可能性があると何度も警鐘を鳴らしてきた。
※ダイヤモンドオンライン「『フィンランド式教育』は日本に必要か?本国は数学の学力が深刻低下」(2022年5月29日)
プレジデントオンライン「九九を暗唱させる『日本式』は間違っていなかった…『世界一の教育大国』で学力崩壊が進んでいる納得の理由」(2026年3月15日)
フィンランドが2000年代に好成績を収めた背景には、自主性重視へ舵を切る以前に身につけた「暗記重視」の基礎学力の蓄積が反映されていた可能性がある。その貯金が次第に薄れた結果が表れたのではないだろうか。
日本もフィンランドと同じ道を歩みかけている。「ゆとり教育」のもとで2003年と2006年のPISAで順位を落とし、「PISAショック」と呼ばれた。だが日本はこのショックを受けて学力重視へと舵を切り直し、2008年の学習指導要領改訂では授業時間と学習内容が増やされた。2009年には成績が回復し始めている。
日本は引き返し、フィンランドは引き返さなかった。この違いが、20年後の明暗の一因となって表れた可能性がある。
世界の子どもの学力に異変が起きている。評論家の白川司さんは「日本など基礎を重視してきた国が上位を維持している一方、フィンランドなど自主性を重んじてきた国では学力が低下している。ただし、短文を速く正確に読む力は国に限らず低下傾向にある」という――。
■先進国の学力は過去最低、日本が首位に
経済協力開発機構(OECD)が9月8日に発表した2025年の学習到達度調査(PISA)で、OECD加盟国の15歳の平均成績は「科学コンピテンシー」「数学的リテラシー」「読解力」の3分野すべてで過去最低を記録した。
その中で、日本は3分野すべてにおいてOECD加盟国で首位に立った。3分野そろっての首位は調査開始から初めてのことだ。なお、日本より上位にいるのは、シンガポールや中国、台湾など、OECDに加盟していない東アジアの国・地域だけである。
対照的なのが、かつて「学力世界一」ともてはやされたフィンランドである。今回は数学で22位、読解力で16位にとどまっており、「凋落」と言ってもいい状況にある。
日本とフィンランドの明暗を分けたものは、いったい何だったのか。
イギリスの「フィナンシャル・タイムズ」紙(以下、FT)は、今回の結果を分析し、基礎知識の習得を軽視する教育の流行に乗った国ほど長期的な学力低下が顕著だと指摘している。
いわゆる「フィンランド式教育」は、遊びや自分で調べることなどを通じた学びやテストの削減といった手法で称賛されて、日本でもブームになるほどの人気だった。フィンランドの2006年以降の成績の落ち込みは3教科すべてで先進国最大である。
ちなみに、1990年代のスウェーデンのゆとり教育、2010年に英スコットランドが導入した新カリキュラムも、その後の学力低下の要因とされている。
■「貯金」を使い果たしたフィンランド
筆者はこれまで「フィンランド式教育」については、学力低下を加速させる可能性があると何度も警鐘を鳴らしてきた。
※ダイヤモンドオンライン「『フィンランド式教育』は日本に必要か?本国は数学の学力が深刻低下」(2022年5月29日)
プレジデントオンライン「九九を暗唱させる『日本式』は間違っていなかった…『世界一の教育大国』で学力崩壊が進んでいる納得の理由」(2026年3月15日)
フィンランドが2000年代に好成績を収めた背景には、自主性重視へ舵を切る以前に身につけた「暗記重視」の基礎学力の蓄積が反映されていた可能性がある。その貯金が次第に薄れた結果が表れたのではないだろうか。
日本もフィンランドと同じ道を歩みかけている。「ゆとり教育」のもとで2003年と2006年のPISAで順位を落とし、「PISAショック」と呼ばれた。だが日本はこのショックを受けて学力重視へと舵を切り直し、2008年の学習指導要領改訂では授業時間と学習内容が増やされた。2009年には成績が回復し始めている。
日本は引き返し、フィンランドは引き返さなかった。この違いが、20年後の明暗の一因となって表れた可能性がある。
■「基礎vs自主性」の結果が出た
FTによれば、イングランドやエストニア、東アジア諸国など、基礎的な内容を重視し続けた国は成績の悪化を食い止めている。
低得点層の割合もOECD平均を大きく下回る。今回の上位国・地域がことごとく東アジアであることを考えれば、これは「日本対フィンランド」ではなく、「基礎重視型」と「自主性重視型」の違いだったと考えるべきだろう。
日本の教育論には、「暗記より思考」「知識より個性」と言えば進歩的に見えるという空気が長くあった。FTは、「進歩主義的な教育論者は伝統的な教育方法を安易に過小評価しがちだ」と指摘したうえで、「身につけた事実は批判的思考の土台となり、方程式を繰り返し解くことは抽象的推論の能力を磨く」と主張している。
九九を覚えていない子どもに数学的思考を求めても、考える前に計算で手が止まる。暗記ができていれば、計算に認知資源を奪われず、問題を考えることに集中できる。
英語学習も同じで、英単語の暗記や文法知識の詰め込みを軽視すれば、それだけ英文読解にも時間がかかる。とくに論説文の読解などは困難だろう。重要なのは、訳語を思い出さなくても英単語の意味がわかり、英文法知識を思い出さなくても英文法を無意識に使いこなせることにある。
重要なのは暗記それ自体というより、「いったん暗記して、その知識を無意識に使いこなせるようになるまで練習すること」というプロセスを経ることにある。「暗記か思考か」という二項対立がそもそも誤りなのであって、問われているのは「基礎から応用へ」という順序をしっかりと守ることだ。
■基礎がある子どもはAIも使いこなす
今回、この順序の重要性をさらに明確にしたのが、生成AIである。
PISAでは、文章の要約や下書きなどの学校課題でAIを頻繁に使う生徒の成績は、ほとんど使わない生徒に比べて低い傾向がある一方、思考を代替させるのではなく、補助としてAIを使う生徒は、むしろ良好な成績を示す場合があるとしている。
両者の分かれ目は、AIを使うかどうかではなく、AIを使いこなせる「基礎」があるかどうかである。基礎力のある生徒にとってAIは思考を加速させる道具になりうるが、基礎のない生徒にとっては思考そのものの代わりに陥るリスクがある。それでは、思考力を養うことは難しい。
AIは使い方によっては既存の学力差がさらに広がる可能性がある。その分岐点が「基礎ができているかどうか」である。
■AI時代を生き抜くために必須の力
ちなみに、日本の生徒の学校の勉強におけるAI利用頻度はOECD加盟国中で最も低かった。これは決して「AIを使わないほうが成績が良い」ということではない。実際、エストニアやシンガポールはAI利用率がOECD平均を大きく上回りながら、上位を維持している。
教育において「基礎」を怠っていない国が、その延長線上で「応用」においてAIを有効に活用していると考えるべきだろう。要は使い方しだいだ。
筆者は、AI時代に人間の価値を決めるのは「問いを立てる力」や「答えを選び取る力」だと論じた。
※ダイヤモンドオンライン「毎日1000人が解雇ってマジか…AIで『切られる人』と『1人で“大企業”になる人』の差」(2026年5月12日)
そうした力も、知識がなければ働かない。知らない分野について、本質的な問いは立てられない。
AIは「答えの生産工場」であり、その点はすべてのユーザーに平等だ。差がつくのは的確な問いを立て、AIの出す答えに対して的確な評価ができるかどうかである。言い換えると、思考力がなければ、適切に使いこなせないということになる。
■日本でも「速く正確に読む力」に異変
日本がOECD首位になったからといって、日本の教育が「安泰」なのではない。その点は、各メディアが警告しているとおりだ。
OECD平均の読解力は2015年から10年間で28点も下がっている。PISAでは20点がおおむね学校教育1年分に相当するとされており、それに従えば1年半分もの後退である。
日本も例外ではなく、読解力も前回の516点から503点へと統計的に有意に低下した。
注目すべきはその中身だ。文部科学省と国立教育政策研究所の分析によれば、日本では「評価し、熟考する」設問の正答率はむしろ上昇している。低下したのは「読みの流暢性」、つまり文章を速く正確に読む力だった。
さらに、習熟度が最も低いレベル1以下の生徒は13.8%から18.6%に増える一方、上位層の割合には有意な変化がなかった。全体の読解力が落ちたというより、上位と下位の差が広がった結果である。
考える力はあるのに、基本となる読み取りで取りこぼす。しかも、取りこぼしが下位層に集中する。日本の基礎が下位層から揺らいでいることが、読解力の低下から見て取れる。
■集中力が続かなくなった子どもたち
原因として注目されるのが、スマートフォン(以下、スマホ)とデジタル化だ。OECDは、デジタル化の進行やスクリーン時間の増加、楽しみのための読書の減少が、読解力の低下と同時に起きていると指摘している。ただし、因果関係までは確定させておらず、まだ「仮説」に過ぎない。
ここで考えるべきは、語彙力とは別の課題である。
OECDによると、文章を急いで読み飛ばす生徒の割合は、2018年の約7%から2025年には約11%へと増えた。また前回(2022年)の調査では、授業中にほかの生徒のデジタル機器でほぼ毎回気が散る生徒は、そうでない生徒より数学の得点が約15点低かった。
「読む力」を支えるのは語彙の豊富さだけではない。最後まで意識を内容に向け続けられるかどうか、つまり集中の持続も欠かせない。読解力低下には、子どもが集中力を持続しにくくなっていることが関係している可能性がある。
■受け身では読書の「報酬」は得られない
ところで、集中力のことに触れると、「今の子どもも好きなゲームなら何時間でも熱中するではないか」という反論が出ることがある。だが、ゲームへの集中と読書への集中は本質的に違う要素がある。
ゲームは画面が次々と変わり、数秒ごとに得点や効果音という報酬が返ってくる。それは、ゲームクリエーターたちがユーザーを飽きさせないことを最優先にしているからにほかならない。
極端に言えば、ゲームをやっているときは「次から次に現れる刺激に反応している」という面が強い。これは動画サイトでのショート動画も同様だ。
一方、活字が自ら刺激を与えることはなく、「報酬」もすぐには返ってこない。場面を思い描き、筋を追い、意味をつなぐ作業を、すべて自分の頭の中で行わなければならない。外からの刺激がなくても、自ら注意を向け続ける必要がある。
強い刺激に慣れるほど、刺激の少ない文字に注意を保つのは苦しくなりがちだ。日本で「速く正確に読む力」が落ち、「熟考する力」が保たれた背景には、能力そのものだけでなく、最後まで注意を保つ力の変化もあるのではないか。
■勉強しても長時間スマホで帳消し?
下位層ほど読解力が大きく落ちた理由も、ここから説明できる。本を読まない子どもでも、かつては漫画や雑誌などで日常的に文字に触れていた。それがスマホで見る短い動画に置き換わり、最低限の「読む量」まで失われつつあるのではないか。
仙台市の小中学生約7万人を追跡した東北大学の調査では、家で2時間以上勉強しても、スマホを1日4時間以上使う中学生の数学の平均点は、ほとんど勉強せずスマホも使わない生徒を下回っている。長時間のスマホ利用と学力低下との間に強い関連がみられる。
PISA2018でも、日本の生徒はネット上のチャットや1人用ゲームの頻度がOECD平均を大きく上回る一方、新聞や雑誌を読む生徒は10年足らずで大きく減ったと指摘されている。
スマホの長時間使用や、ゲーム、ショート動画、短いメッセージのやり取りと、読解力低下との関連は無視できない。
■語彙力も集中力も重要なのは「入学前」
語彙の差が小学校入学前に生まれ、後から埋めるのが難しいことは、多くの研究が示している。
※プレジデントオンライン「だから中学生の『読み書き能力』が低下している…今こそ『詰め込み教育」を強化すべきこれだけの理由」(2025年7月21日)
見落とされがちなのは、自分の注意や行動を制御する力も就学前から大きく発達することだ。絵本の読み聞かせを最後まで聞き通す経験は、語彙を増やすだけでなく、注意を保つ経験にもなる。
反対に、幼いころから短い動画に触れる時間が増えれば、語彙や集中の土台づくりに影響する可能性がある。これは子どもや親の努力不足の問題ではない。読む力が育つ環境そのものが変わりつつあるという問題である。
子どもの学力を本気で向上させたいのであれば、学校教育だけでなく就学前教育への公的投資を増やし、語彙と集中の土台づくりを国の課題として位置づける必要がある。教育のスタートを小学1年生と考えると、足下をすくわれかねない。
なお、東京都千代田区では本格的に就学前教育に力を入れるべく、「千代田区の子どもたちのための就学前プログラム」を2025年に策定した。先進的な取り組みとして評価したい。
■国語や算数の授業を減らしていいのか
ところが、日本でも気になる動きが始まっている。2030年度以降の次期学習指導要領では、情報教育を増やすため、国語や算数など多くの教科の授業時数を3〜4%程度減らす方針が打ち出されている。
※朝日新聞「小・中学校の授業数、各教科一律に3〜4%削減 情報教育拡充で」(2026年9月25日)
文科省は学習内容自体は維持するとしているが、PISAで基礎学力の重要性が改めて示された直後に、基礎教科の時間を削ることが本当に正しいのかを検討すべきだ。
日本がOECD首位に立った背景には、「暗記は悪」という偏見にとらわれず、基礎学力を重視してきたことがある。テクノロジーの活用や自主性を重んじる教え方は「応用」に属するもので、「基礎」という学力の土台はこれまでどおりしっかりやっていくべきだ。
一方で、読解力の低下は、スマホ全盛時代における次なる課題を示している。
AI時代であっても、需要なのは考える力の土台となっている基礎の重要性は変わらないのである。そしてその土台は、就学前の語彙と集中、そして学齢期の暗記と反復によってつくられる。
AI時代であろうが、人間の考える営みには大きな違いはない。流行に流されず、基礎の大切さを最優先に考えるべきなのである。そしてAI時代における次なる課題は、答えの生産工場であるAIに対して適切な問いを立て、その答えを正しく評価できる力を養うことにある。
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白川 司(しらかわ・つかさ)
評論家・千代田区議会議員
国際政治や日本論など幅広いフィールドで活躍。YouTubeチャンネル「デイリーWiLL」コメンテーターを経て、文化人放送局コメンテーター。メルマガ「マスコミに騙されないための国際政治入門」が好評。新刊に『習近平は何を恐れているのか?』(ビジネス社)。既刊書に『14歳からのアイドル論』(青林堂)、『日本学術会議の研究』『議論の掟』(ワック)、翻訳書に『クリエイティブ・シンキング入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。
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